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- 日本株が長期投資の対象となる理由
東京株式市場は2025年年初より不安定な展開となっている。米国においてドナルド・トランプ大統領が就任、関税など主要政策が世界経済に及ぼす影響は読めない。また、米中両国の対立が先鋭化、半導体などの対中輸出が強化される可能性がある。米国発の不透明感が、日本株にも伝搬しているのではないか。一方、ファンダメンタルズを冷静に見ると、日本株の投資環境は悪くない。循環的には、企業業績が増益基調にある。また、構造要因として注目されるのは、アリマンタション・クシュタール(ATD)によるセブンアイホールディングス(7&iHD)への買収提案だ。時価総額6兆円規模の業界トップ企業が外資系企業に買収される場合、そのインパクトは極めて大きいだろう。株式持ち合い、政策投資が縮小に向かい、上場企業の経営権が流動化するなか、円安を活用した日本企業への戦略的買収が増加する可能性があるからだ。こうした動きは、上場企業に株主資本利益率(ROE)の改善を迫るものであり、市場の構造変革への期待を高めると想定される。
■日経平均は採用銘柄の1株利益に連動
循環的に見た場合、日本株を取り巻くファンダメンタルズが悪い環境にあるとは考え難い。最大の理由は、一株利益(EPS)が伸びていることだ。ブルームバーグの集計によると、足下、日経平均採用銘柄の予想EPSは加重平均で2,064円になった。前年同月比45.6%の伸びであり、利益のモメンタムは上振れの方向にある。1990年代初頭の資産バブル崩壊以降、日経平均はEPSとの連動制が極めて高い。
■日本企業の業績を左右するのは米国景気
日経平均のEPSは、米国供給管理協会(ISM)が公表している米国の製造業景況感指数(ISM指数)に強く連動する傾向がある。稼ぎ頭の自動車産業やテクノロジー系の企業群が、収益を大きく米国に依存しているからではないか。米国経済は堅調だが、製造業の景況感は低調な推移だった。人手不足が一因だろう。しかし、新規受注指数が2ヶ月連続で50を超えるなど、ISM指数にも底入れの兆しが見える。
■ 日本株はアンダーパフォーム
昨年、MSCIの世界指数は19.3%上昇した。同指数の73.9%を占める米国が23.4%の値上がりで、全体を牽引したことが要因だ。一方、日本株の上昇率は18.5%に止まった結果、対世界指数では0.7%のアンダーパフォームだった。また、ドル高・円安の進捗により、ドルベースで見た日本株は9.1%のアンダーパフォームとなっている。2024年は米国市場の独り勝ちだったと言えるだろう。
■外国人の日本株買いは円キャリートレードと連動か
外国人は、昨年1~4月に4兆5,862億円、5~7月は6,303億円、日本株を買い越した。しかしながら、8~12月は4兆7,752億円の売り越しだ。転換点は、7月30、31日に開催された日銀政策決定会合ではないか。この時、日銀は政策金利である無担保コール翌日物の誘導水準を「0~0.1%程度」から「0.25%程度」へ引き上げた。円キャリートレードの解消が、日本株売りを誘発したと見られる。
■日本は理論上の解散価値を下回る株価の企業が多い
東京市場の大きな特徴は、バリューの低いこと、即ち低株価純資産倍率(PBR)であることは1990年代央以降度々指摘されてきた。1月10日現在、TOPIXの構成銘柄2,123のうち、PBR1倍割れは49.5%だ。つまり、東証プライムを中心とした東京市場の主要銘柄群において、理論上の解散価値を下回る株価の上場企業が概ね半分に達している。これは、S&P500やストック欧州600と比べた日本株の市場としての特殊性だ。
■企業価値は資本利益率に連動
世界の主要市場について、予想ROEとPBRの関係を見ると、各市場は右肩上がりの一次回帰直線に近い位置に集まる。この一次回帰直線の決定係数(R2)は0.82であり、統計的な説明力は極めて高い。東京市場のバリュー評価が低い理由は、単純にROEの低さで説明できる。予想ROEは8.90%であり、当該10市場において最も低い水準だ。米国を除いた平均は10.83%だが、それも下回っている。
■持ち合い解消の下、外国人の比率が増加
上場企業の低ROEが容認されてきた要因は、株式持ち合いや政策投資など、株価のパフォーマンスを期待しない株主が経営権の流動化を妨げてきたことだ。しかし、持ち合い、政策投資は解消へ向かう一方、外国人、投資信託が株主としての存在感を高めつつある。株式の売買に加え、株主総会における議決権の行使を通じて、上場企業の経営者は企業価値の向上を迫られるだろう。
■日本のROEは安倍政権が目標とした10%以上を超えていない
ATDによる7&iHDへの買収提案は、企業価値が低水準に留まる多くの上場企業に対し、大胆な経営判断を迫る可能性がある。具体的には、1)経営改革によりROEを上げる、2)MBOなどにより上場を廃止する、3)他の企業に高く買ってもらう・・・の3つの選択肢があるだろう。東京市場に上場する多くの低PBR企業がこのどれかを選択する場合、東京市場全体の企業価値が底上げされると考えられる。
■ 日本株が長期投資の対象となる理由:まとめ
江戸幕府はマシュー・ペリー提督率いる4隻の黒船によって開国を迫られ、それが明治維新へ向けた大きな転換点になった。ATDが「黒船」級の衝撃を日本企業の経営に与えるとまでは言わないが、上場の意義を見直す契機になると見られる。循環的なファンダメンタルズが悪くないなか、構造面においても、日本株が万年低バリューから脱却する糸口は見えるようになり、少なくとも方向は前向きだ。循環的要因、構造的要因は、いずれも日本株投資にとって悪くない環境を示しているのではないか。
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