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決算会見から読み解く米国企業のインフレ・リスク
田中 純平
2021/07/26

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概要

4-6月期決算発表の会見においてインフレに言及する米国企業が相次いでいる。企業にとってインフレはコストインフレを意味し、コスト増加分を製品やサービス価格に十分転嫁することができなければ収益性が低下しかねないため、インフレに関するコメントが増えたとしても不思議ではない。決算会見から米国企業が直面するインフレ・リスクについて読み解いてみた。



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幅広い業種でインフレ圧力が顕在化

4-6月期決算発表の真っ只中にある米国企業からは、これまで以上にインフレに対するコメントが散見された。コロナ禍における供給網のボトルネックや原材料不足、経済正常化への進展に伴うペントアップ(先送り)需要の顕在化などから米国ではインフレ圧力が高まっており、広範にわたる業種においてインフレ対応は収益性を左右しかねない重大な課題となっている。その深刻な状況が主要企業の決算会見から読み取れる。

スポーツ用品を手掛けるナイキは、サプライチェーンの遅延と物流コストの上昇が22年度(会計年度)の大半の期間にわたって続くと予想しているほか、半導体のインテルも半導体供給が完全に需要に追いつくにはあと1~2年はかかると予想している。また、化学メーカーのダウも2021年は主要製品のバリューチェーン全体で需要が供給を上回るとの見解を示している。さらに、宅配ピザチェーンのドミノ・ピザは人員確保が困難だったと発表しており、モノの供給不足だけでなくヒトの供給不足もインフレ圧力につながる可能性が浮き彫りになっている。

インフレ圧力が「一過性」にならない場合は注意が必要

しかし、米国企業もインフレに対して手をこまねいているわけではない。例えば、鉄道運営会社のCSXは重要な材料に関してはすでに十分な在庫と供給コミットメントを確保しているほか、食品・飲料メーカーのペプシコも(必要な原材料等を)事前に調達済みだ。平時から長期契約やデリバティブ契約によってコストの変動を抑える取組みを行っている企業は、インフレ圧力に対して依然として余裕があると言える。

また、足元で需要過多となっている業界やブランド力のある企業は容易にコスト増加分を製品/サービス価格に転嫁することが可能だ。例えば住宅建設業者のDRホートンは、事業環境が良好なためコスト圧力を値上げで相殺できるとコメントしているほか、コカ・コーラもブランド力があればコスト上昇分を価格転嫁できると自信を示している。

今のところマーケットは現状程度のコストインフレであれば価格転嫁可能だと判断しているようだが、インフレ圧力が「一過性」にならない場合は企業の価格決定力に差が出てくる可能性があるため注意が必要だ。特に業績相場へシフトしつつある状況下では、(価格決定力は業績に影響を及ぼすため)なおさら重要な指標になりうる。今後もインフレ動向からは目が離せない。

個別の銘柄・企業については、あくまでも参考であり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞歴を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして、主に世界株式市場の投資戦略などを担当。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演。2023年より週刊エコノミスト「THE MARKET」に連載。日本経済新聞ではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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