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世界株安を引き起こした2つの懸念材料
田中 純平
2021/10/04

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概要

MSCI先進国株指数は9月28日、約11ヶ月ぶりに100日移動平均線を下回った。前回この指数が100日移動平均線を割ったのは米大統領選挙直前のことだったが、当時と比較して今回のVIX指数は比較的穏やかに推移している。直近の世界株安のきっかけは、特定のイベントを嫌気した突発的な「リスク・オフ」ではなく、「ファンダメンタルズの悪化」に起因する可能性が高い。



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約11ヶ月ぶりに100日移動平均線を割った先進国株指数

MSCI先進国株指数(米ドル建て)は、9月28日に100日移動平均線をおよそ11ヶ月ぶりに下回り、10月1日現在もその移動平均線を下回った状態だ(図表1)。MSCI先進国株指数が前回100日移動平均線を下回ったのは2020年10月28日~11月2日であり、まさに11月3日の米大統領選挙を控えて相場の先行きに不透明感が高まった時期だった。しかし、VIX指数で見ると今回は当時の状況とは明らかに異なる。

別名「恐怖指数」と呼ばれるVIX指数(終値)は、2020年10月28日に40.28をつけており、マーケットの緊張感がかなり高まっていたことが確認できる。しかし、今年9月28日のVIX指数(終値)は前日の18.76から23.25まで上昇したとはいえ、米大統領選挙前の水準と比較すればかなり穏やかだったと言える(図表2)。ここから推察されることは、今回引き起こされた世界株安のきっかけが、特定のイベントを嫌気した突発的な「リスク・オフ」によるものではなく、2つの懸念材料によって積み上げられた「ファンダメンタルズの悪化」に起因する可能性が高いということだ。

①中国の景気減速と②グローバルなインフレの高止まりが懸念材料に

その2つの懸念材料とは、①中国の景気減速懸念と、② (日本を除く)グローバルなインフレ懸念だ。①に関しては、中国恒大問題や電力不足が中国経済の下振れリスクにつながっている。②に関しては、特にアジアにおける新型コロナ感染拡大に伴う生産停止やサプライチェーンの停滞等がインフレの高止まりを引き起こし、消費者マインドを悪化させている。

この2つの懸念材料は企業業績の悪化にも直結する。中国経済が減速すれば、中国の売上比率が高いグローバル企業の業績への影響は避けられない。また、インフレ圧力が高まれば、価格決定力が弱い企業は収益性が低下するリスクにさらされる。さらに、生産停止やサプライチェーンの停滞が長引けば、今年の年末商戦までに在庫を確保できない可能性もある。実際、前述した要因で市場予想を下回る決算を発表し、株価が急落する企業も散見されはじめている。

このように世界株を取り巻くファンダメンタルズは、以前ほど良好ではなくなってきている。足元の世界株の下落は、中国の景気減速とグローバルなインフレ圧力に伴う企業決算の下振れリスクを織り込みにいく過程で生じた可能性がある。

しかし、だからと言って悲観一色になる必要も無いだろう。現在、新型コロナウイルス感染症の経口治療薬が治験の最終段階に入っている(図表3)。米メルクのCEOは、米国において同治療薬の緊急使用許可(EUA)が年内に下りる可能性があると明かしており、新型コロナ対策において「ゲーム・チェンジャー」になることが期待される。経済正常化に向けて景気が再加速するシナリオにも注目だ。

個別の銘柄・企業については、あくまでも参考であり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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