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脱炭素関連銘柄の物色動向に変化の兆しか?
田中 純平
2021/11/01

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概要

年初来でMSCI先進国株指数に対して劣後していた脱炭素関連銘柄に反転の兆候が表れている。反転のきっかけは、①テスラの好決算、②バイデン米政権の巨額経済対策法案と③太陽光関連銘柄を取り巻く力強いファンダメンタルズだ。脱炭素関連銘柄は期待感だけでなく、好調な企業業績も株価上昇をけん引する構図に変わってきた可能性がある。



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10月下旬から脱炭素関連銘柄の株高が顕著に

太陽光発電や風力発電などの脱炭素関連銘柄で構成されるS&Pクリーン・エネルギー株指数のパフォーマンスは、10月下旬に入ってからMSCI先進国株指数を大きく上回る展開となっている(図表)。同指数は昨年末からMSCI先進国株指数を下回るパフォーマンスが続いていたことから、じつに約10ヶ月ぶりの反転になる。

この反転のきっかけになった材料は3点ほど挙げられる。1点目はテスラの好決算だ。10月20日引け後に発表された7-9月期決算は、自動車業界全体に広がる半導体不足やサプライチェーン問題にもかかわらず、1株あたり利益が市場予想を上回り、株価は10月20日から29日にかけて28.7%上昇した。同社はS&Pクリーン・エネルギー株指数には含まれないが、脱炭素関連銘柄の代表格であるテスラの好決算が、脱炭素関連全体の注目を集めるきっかけになった可能性がある。

2点目はバイデン政権の「ビルド・バック・ベター(よりよき再建)法案」だ。10月下旬ごろから主要メディアで合意間近と相次いで報じられたこの法案は、気候変動予算5500億ドルを含む総額1.75兆ドルの巨額経済対策だ。当初は10年間で約3.5兆ドルを投じる計画だったが、与党民主党の中道派上院議員2名が反対したことから、10月28日に規模を半分に圧縮して発表された。この法案に含まれる気候変動対策には、クリーン・エネルギーや電動自動車に適用される10年間の税額控除延長(3200億ドル)が含まれており、(法案が成立するか不透明だが)マーケットはこれを素直に好感したと考えられる。そして3点目が太陽光関連銘柄を取り巻く力強いファンダメンタルズだ。

 

市場予想を上回る決算を発表した太陽光関連銘柄が上昇をけん引

S&Pクリーン・エネルギー株指数における組入銘柄上位にソーラー・パネル・システム(マイクロインバーター)を手掛ける米国のエンフェーズ・エナジーという銘柄がある。日本ではあまり知名度は無いが、時価総額は10月29日時点で312億ドル(約3兆5600億円)にのぼる大企業だ。このエンフェーズ・エナジーが10月26日引け後に発表した7-9月期決算は、調整後1株あたり利益($0.62)が市場予想($0.49)を上回り、さらに10-12月期の売上高ガイダンス(3.9億ドル-4.1億ドル)も市場予想(3.74億ドル)を上回ったことから、株価は翌日に前日比+24.7%と急騰した。また、同様に太陽光発電サービスを展開する時価総額50億ドル(約5700億円)の米国サンノヴァ・エナジー・インターナショナルも、10月27日引け後に発表した7-9月期決算で堅調な業績ガイダンスを示したことから、翌日の株価は前日比4.55%上昇した。

米国の太陽光関連企業が好調な決算や業績ガイダンスを発表している背景には、電力料金の値上げと頻発する停電による自家発電需要の高まりがある。米国の電力料金は年々上昇しており、老朽化する送電網の設備投資費が長期間にわたって価格転嫁されるかたちで、今後も値上がりすることが予想されている。また、気候変動を背景とした山火事や大型ハリケーン、大寒波による停電が相次いでいることから、自家発電が可能な太陽光発電と余剰電力を貯蔵する蓄電池への需要が高まっている。

米国では、長期的な電力料金の値上げを回避する目的だけでなく、気候変動に対する脅威から身を守る手段として、改めて太陽光発電システムに注目が集まっている。これまでは主に期待先行で物色されてきた脱炭素関連銘柄も、ここにきて好調な企業業績(ファンダメンタルズ)も株価上昇をけん引する構図に変わってきた可能性がある。

個別の銘柄・企業については、あくまでも参考であり、その銘柄・企業の売買を推奨するものではありません。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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