Article Title
米雇用統計の上振れでテーパリング加速が視野に入る
田中 純平
2021/12/07

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

11月米雇用統計では家計調査において雇用者数が前月比113.6万人も増加したことが材料視され、マーケットではFRBによるテーパリングの加速観測が高まった。今後はFRBの流動性供給が絞られ、株価バリュエーションが低下しやすい相場環境になることが想定されるため、来年は企業のファンダメンタルズを重視した株式の選別がより一層重要になるだろう。



Article Body Text

11月米雇用統計を受けてテーパリング加速観測がさらに高まる 

12月3日に発表された11月米雇用統計は、事業所調査である非農業部門雇用者数が前月比21.0万人増と市場予想の同55.0万人増を大きく下回ったが、家計調査である失業率は4.2%と市場予想の4.5%を下回り、前月の4.6%から大きく低下した(図表1)。事業所調査と家計調査との間でここまで大きな乖離が見られることは不可解だが、家計調査では労働参加率が前月の61.6%から61.8%へ上昇する中で雇用者数が前月から113.6万人も増加したこともあり、マーケットでは家計調査による雇用統計の上振れが材料視され、テーパリングの加速観測がさらに高まる展開となった。実際、セントルイス連銀のブラード総裁も今回の雇用統計を受けて、「おそらく非農業部門雇用者数に(上方)修正が入るだろう」との見解を示している。

そもそも11月のFOMC(米国連邦公開市場委員会)では、FRB(米国連邦準備制度理事会)による米国国債の買付けが毎月100億ドルずつ、米国MBS(住宅ローン担保証券)の買付けでは毎月50億ドルずつ減額される方針が示されていた(来年6月時点で買付け額がゼロになる計算)。しかし、11月30日に開催された上院銀行委員会でのパウエルFRB議長の議会証言では、インフレが「一過性」との表現を削除するのが妥当な時期が来たとし、テーパリングの終了を数ヶ月早めることを検討することが適切だと発言、テーパリングが加速するとの見方が広がるきっかけになっていた。そのような中、今回の家計調査における雇用統計の上振れが、テーパリング加速の可能性をさらに高める決定打になったと言える。

来年は企業のファンダメンタルズが株価材料としてより重要になる年

先進国株式市場では一連のテーパリング加速観測によって、直近5日間におけるMSCI先進国成長株指数の下落率がMSCI先進国割安株指数の下落率を上回る展開となった(図表2)。成長株は特にFRBによる積極的な量的緩和政策による恩恵を受けてきただけに、テーパリングによる反動で成長株に対して警戒感が広がったとしても不思議では無いだろう。

テーパリングはあくまで量的緩和の縮小であり、金融緩和状態であることに変わりは無い。しかし、流動性供給自体が絞られている点は見逃すべきではなく、潜在的には株価バリュエーションの低下圧力につながるリスクがある。

ここで特に注意すべきは、期待先行型で株価が急騰したリスク値の高い赤字体質の成長株だろう。このような株式は利益の裏づけが乏しい分、FRBによる流動性供給が絞られる局面ではバリュエーションが大幅に低下してしまう可能性がある。来年は先進国株式市場全体で増益率が大幅に鈍化することがコンセンサス(市場予想)となっているだけに、ファンダメンタルズを重視した株式の選別がより一層重要になるだろう。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら

MSCI指数は、MSCIが開発した指数です。同指数に対する著作権、知的所有権その他一切の権利はMSCIに帰属します。またMSCIは、同指数の内容を変更する権利および公表を停止する権利を有しています。



関連記事


史上最高値を更新したS&P500に死角はないのか?

米半導体株に忍び寄る「米中貿易戦争」の影

米国株「トランプ・トレード」が爆騰

なぜ米10年国債利回りは急上昇したのか?

S&P500指数にみる「原子力ルネサンス」

米利下げでS&P500指数はどうなる?