Article Title
12月FOMCが「想定内」とは言えない理由
田中 純平
2021/12/20

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

12月FOMCではテーパリング加速と利上げペースの加速が示された。これらは市場関係者の想定通りの結果であったが、唯一「想定外」とも言えるのが「量的引き締め」に関する議論が今回のFOMCで行われたことだ。マーケットは予想よりも早い「量的引き締め」の開始を織り込み始めている可能性がある。



Article Body Text

テーパリング加速は想定内

12月14-15日に開催されたFOMC(米国連邦公開市場委員会)でFRB(米国連邦準備制度理事会)はテーパリング(量的緩和縮小)の加速を決定した。前回11月のFOMCでは来年6月にテーパリングが終了するガイダンスを示していたが、これを前倒しして来年3月とする(図表1)。わずか1ヵ月で方針転換を迫られた背景には想定外のインフレ圧力がある。

FRBはこれまで高インフレは「一時的」との見解を繰り返してきた。しかし、コロナ禍に伴う生産不足やサプライチェーン(供給網)のボトルネック等によって、インフレはFRBの想定以上に上昇、そして長期化する見通しへと変容した(図表2)。

実は11月30日に開催された上院銀行委員会において、すでにパウエルFRB議長はインフレが「一時的」であるとの見解を撤回し、さらに今後のテーパリングについても「数か月、早めるのが適切」と軌道修正をかけていた。その後、12月3日に発表された11月米雇用統計でも家計調査の雇用者数が前月比113.6万人も増加したこともあり、マーケットではテーパリング加速がいわばコンセンサス化していた。このため、12月FOMCでテーパリング加速が決定し、FOMCメンバーの経済予測でインフレと政策金利見通しが上方修正されても、特段のサプライズはなかったと言える。

FOMCで「量的引き締め」の議論が行われたことは想定外

テーパリング加速も想定内、来年の利上げペース加速も想定内となった12月FOMCだが、唯一「想定外」とも言えるのが「量的引き締め」に関する議論が今回のFOMCで行われたことだ。パウエルFRB議長は12月FOMC後の会見で、FOMCにおいてバランスシート問題(量的引き締め)が議論されたことを明らかにしたのだ。

「量的引き締め」は「量的緩和」の逆でFRBが保有する米国国債などの残高を圧縮する金融政策を指し、2010年代のFRBの金融政策は、テーパリング開始(2014年1月)→利上げ開始(2015年12月)→「量的引き締め」開始(2017年10月)という順番で、段階的に行われていた。

注目すべきはその間隔だ。テーパリングが開始された2014年1月から約2年後に利上げが開始され、さらに利上げが開始された2015年12月から約2年後に「量的引き締め」が開始されている。前回のテーパリングから利上げ、そして「量的引き締め」への移行は実に緩やかに行われていたことが分かる。

では今回はどうだろうか。FRBが示した方針通りになれば、テーパリングは来年3月に終了し、早ければ来年3月15-16日のFOMCで利上げが決定される可能性がある。テーパリングが開始されたのは今年11月なので、利上げまでの間隔はわずか4か月になる計算だ。それに追討ちをかけたのがパウエルFRB議長による「バランスシート(量的引き締め)」発言だ。今回のFOMCでは「量的引き締め」に関する方針は何も決まっていないが、マーケットは予想よりも早い「量的引き締め」の開始を織り込み始めている可能性がある。12月FOMC後に株式市場が不安定になった理由のひとつがここにあると考えられる。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら

MSCI指数は、MSCIが開発した指数です。同指数に対する著作権、知的所有権その他一切の権利はMSCIに帰属します。またMSCIは、同指数の内容を変更する権利および公表を停止する権利を有しています。



関連記事


米半導体株に忍び寄る「米中貿易戦争」の影

米国株「トランプ・トレード」が爆騰

なぜ米10年国債利回りは急上昇したのか?

S&P500指数にみる「原子力ルネサンス」

米利下げでS&P500指数はどうなる?

なぜ生成AI(人工知能)関連株は急落したのか?