Article Title
FRBの利上げは世界株にとってマイナスなのか?
田中 純平
2022/01/17

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

先進国株式市場では主にFRBによる利上げ前倒し/保有資産の早期縮小観測を背景に年初来で軟調な展開となっているが、逆にインド株やブラジル株は上昇するなど、FRBの金融引締政策が必ずしも世界株共通の売り材料とはなっていない。むしろ、前回のFRBの利上げ局面における経験則に従えば、「金融引締→株安」局面は短期的な事象にとどまる可能性がある。



Article Body Text

FRBの利上げ前倒し観測等で主要各国地域の株価指数は年初来で軟調推移

2021年は世界的に大規模な財政支出や主要中央銀行による流動性供給等が行われた結果、主要各国地域における株価指数は先進国株を中心に好調な株価騰落率となった。しかし、年初来では主にFRB(米国連邦準備制度理事会)による利上げ前倒し/保有資産の早期縮小観測を背景に軟調に推移している(図表1)。

だが、これはあくまで先進国株における状況だ。新興国株に目を向ければ、中国A株は(そもそもFRBの金融政策ではなく)「共同富裕」による不動産業界やIT業界の締付けによって21年の株価騰落率は低迷し、年初来のパフォーマンスも下落が目立っている。また、ブラジル株はブラジル国内の政治リスク(放漫財政)や物価急騰(急激な利上げ)が嫌気されるかたちで21年は通年で下落しており、年初来ではその反動からやや上昇傾向となっている。さらに、インド株は21年に続いて年初来でも続伸する展開となっている。FRBの利上げによって新興国から投資資金が流出し、新興国株式市場は低迷しやすいと一般的には考えられているが、(短期間ではあるものの)年初来の値動きを見る限りそのような一貫した方向感は見られない。

一方、21年における通貨別騰落率では、円の独歩安が顕著となった(図表2)。日本経済の低成長と低インフレに伴う内外金利差の拡大、原油高による貿易収支悪化、さらには先進国株式市場における「リスクオン」などが円安要因として挙げられるが、年初来ではやや円高基調となっている。

喉元過ぎれば熱さを忘れる?

FRBによる利上げ前倒しによる先進国株の株安圧力は、過去の経験則に照らし合わせれば短期的な事象にとどまる可能性がある。前回のFRBの利上げ局面(2015年12月~2018年12月)における株価騰落率は(中国A株以外)株高となっていた(図表3)。先進国株だけでなく、新興国株でも同様の傾向となっていた点は特筆に値する。一方、通貨については円高傾向となっており、今年の年初来の方向感と概ね一致する。

当面はFRBによる金融政策方針が十分織り込まれるまで特に先進国株市場は不安定な相場展開が予想されるが、その後は過去の経験則のように「喉元過ぎれば熱さを忘れる」状態へ変化する可能性も想定すべきだろう。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら

MSCI指数は、MSCIが開発した指数です。同指数に対する著作権、知的所有権その他一切の権利はMSCIに帰属します。またMSCIは、同指数の内容を変更する権利および公表を停止する権利を有しています。



関連記事


史上最高値を更新したS&P500に死角はないのか?

米半導体株に忍び寄る「米中貿易戦争」の影

米国株「トランプ・トレード」が爆騰

なぜ米10年国債利回りは急上昇したのか?

S&P500指数にみる「原子力ルネサンス」

米利下げでS&P500指数はどうなる?