Article Title
米期待インフレ率が3%台へ上昇 FRBの「ビハインド・ザ・カーブ」鮮明に
田中 純平
2022/04/25

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

4月21日に開催されたIMFの討議に参加したパウエルFRB議長のタカ派発言を受けて、米国の期待インフレ率(10年ブレーク・イーブン)は一時3.07%をつけた。この市場参加者が予想する将来の物価上昇率が上振れた背景には、FRBが「ビハインド・ザ・カーブ」に陥ったと市場が判断した可能性が指摘される。



Article Body Text

これまで以上にタカ派に傾斜したパウエルFRB議長

先週21日のパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の発言がマーケットを動かした。パウエル議長は国際通貨基金(IMF)主催の討議に参加し、5月会合では0.5%の利上げが選択肢に入ると発言、「私の考えではもう少し速いペースで動くことが適切だ」とコメントした。また、インフレについては「今年3月がピークだったかもしれないが、それは分からないので当てにしない」とも述べた。

これまでハト派とされたブレイナードFRB理事やニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁から相次いでタカ派発言が飛び出していたため、5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)における0.5%の利上げがすでに市場では織り込まれていた。しかし、FRB議長自身が中立金利への利上げが急務であると認め、場合によってはそれ以上の引き締めが必要になる可能性についても言及し、さらに今後インフレ率が上振れる可能性も否定しなかったことから、市場はこれまで以上に急激な利上げを織り込む展開となった。

4月20日のフェデラル・ファンド(FF)金利先物のイールドカーブ上では今年12月時点のFF金利を約2.6%と織り込んでいたが、これがパウエルFRB議長発言後の4月22日には約2.8%まで上方修正された(図表1)。今年3月時点の「ドットチャート」では中立金利が2.375%と示されていたので、市場は中立金利を大幅に上回る利上げを年内見込んでいることになる。

FRBの「ビハインド・ザ・カーブ」が鮮明に

米国の期待インフレ率(10年ブレーク・イーブン)は4月22日に一時3.07%をつけた(図表2)。3月中旬以降は概ね2.8%から3.0%の狭いボックス圏で推移してきたが、前述したパウエルFRB議長発言をきっかけに再び上昇トレンドの兆しが出てきた。

FRB当局者による度重なるタカ派発言にもかかわらず期待インフレ率が上昇した背景には、FRBの金融政策が「ビハインド・ザ・カーブ(behind the curve、後手に回った状態)」に陥っていることがいわばコンセンサス化した可能性がある。無論、FRBの量的引き締め開始を控え、米物価連動国債の需給悪化が嫌気された可能性も否定できないが、S&P500指数が4月21日から2日連続で大幅安となったことを鑑みれば、「ビハインド・ザ・カーブ」→「さらなる金融引き締め観測」→「バリュエーションの低下(株安)」と見るほうが無難だろう(図表3)。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


史上最高値を更新したS&P500に死角はないのか?

米半導体株に忍び寄る「米中貿易戦争」の影

米国株「トランプ・トレード」が爆騰

なぜ米10年国債利回りは急上昇したのか?

S&P500指数にみる「原子力ルネサンス」

米利下げでS&P500指数はどうなる?