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「パウエル・プット」は消滅か?ナスダックを襲うPER低下の猛威
田中 純平
2022/05/09

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概要

5月FOMC直後のリリーフ・ラリーは短命に終わった。背景にあるのはFRBにおける金融政策の不確実性であり、インフレを抑制しつつ景気後退を避ける「軟着陸シナリオ」に対する疑義の念だ。もはや「パウエル・プット」への期待は後退しつつあり、警戒すべきは相対的に割高なナスダック総合指数における予想PERの低下だろう。



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5月FOMC直後のリリーフ・ラリーはわずか1日で帳消しに

5月4日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後のリリーフ・ラリー(安堵感からの相場上昇)は短命に終わった。

FOMC直後に開催された記者会見でパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、1会合当たり0.75%の利上げについて「積極的に検討しているものではない」と否定、さらに0.5%の利上げが「今後数回の会合で検討されるはず」と発言したことから、市場が警戒していたほどタカ派ではなかったと解釈された。

これを受けて同日のナスダック総合指数は引けにかけて大きく上昇、前日比+3.19%の大幅高となった。しかし、翌日は同-4.99%と急反落し、わずか1日でリリーフ・ラリーが帳消しとなった(図表1)。

3月のFOMCではFRBの金融政策方針がある程度クリアになった(不透明感がやや後退した)ことなどを受けて、ナスダック総合指数は短期的な上昇トレンドが形成されていたが、今回の状況は明らかに異なる。ヒントはパウエルFRB議長の記者会見にある。

報道ではインフレを抑制しつつ景気後退を避ける「軟着陸」をFRBが期待していると報じられたが、パウエルFRB議長が実際語った言葉は「soft or softish landing(軟着陸あるいは軟着陸に近いもの)」であり極めて曖昧な表現だった。また、今後の金融政策運営が非常に困難になるとも予想しており、FRBの手に負えないような出来事に左右されるかもしれないと発言している。むしろ先行き不透明感が高まった格好だ。

「パウエル・プット」消滅がナスダック総合指数における予想PERの低下を誘発

パウエルFRB議長の記者会見では中立金利(完全雇用と2%のインフレを想定した長期的な推計値)についても言及された。3月時点のFOMCドットチャートでは2.375%がその中央値として示されたが、実際は2~3%の範囲でFOMCメンバーの予測にバラつきがあり、これについてパウエルFRB議長は「不確実性がある」と表現した。

現在、フェデラル・ファンド金利先物市場では、その中立金利を上回る利上げが織り込まれているが、この中立金利の推計次第では金融政策の到達点(含意)も大きく変わってくる(図表2)。これも不透明感を高める要因のひとつだ。

より確かなことは、その不確実な中立金利まで急ピッチに利上げが進む「方向感」であり、それがもたらすものは株式市場における「パウエル・プット(金融政策支援)」の消滅だ。その状況を端的に示すのが米実質金利の急上昇であり、ナスダック総合指数における予想PERの大幅な低下を誘発している(図表3)。ナスダック総合指数は相対的にバリュエーションが高いため、予想PER低下の猛威によりいっそう警戒すべきだろう。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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