Article Title
S&P500指数はベアマーケット入りか?今後の展開は?
田中 純平
2022/05/24

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

S&P500指数がベアマーケット入り間近だ。過去のベアマーケット局面では最大下落率が概ね3割を超えていたことを考えると、S&P500指数のダウンサイド・リスクは依然として大きい可能性がある。今後さらにS&P500指数が下がると仮定した場合、現在進行中の「市場予想PERの低下」に加えて「市場予想EPSの低下」が同時に発生するワースト・ケース・シナリオが想定される。



Article Body Text

S&P500指数はすでにザラ場ベースで「ベアマーケット」入り

S&P500指数がベアマーケット入り間近だ。一般的には終値ベースで高値から安値まで20%超の下落率となった場合に「ベアマーケット(弱気相場)」入りとみなされる。今回は1月3日終値の年初来高値から5月19日終値の年初来安値まで18.7%の下落(配当無し、米ドル建て、以下同)にとどまっているため、厳密にはベアマーケット入りとはならない。しかし、ザラ場ベースでは1月4日の年初来高値から5月20日の年初来安値まで20.9%下落したため、ベアマーケット入りを早々と宣言した市場関係者もいる(図表1)。

ベアマーケットの定義が終値だろうが、ザラ場だろうが、両者に本質的な違いはないだろう。重要なのは相場が20%近く急落するほど相場環境が大きく変化したという事実だ。当初はインフレ圧力の高まりを受けて米国連邦準備制度理事会(FRB)による急激な金融引き締め観測が相場を押し下げる要因になったが、これに加えて新たに景気見通しの悪化なども相場急落に拍車をかける展開になりつつある。

S&P500指数の年初来騰落率を市場予想PER(株価収益率)と市場予想EPS(1株当たり利益)に分解すると、市場予想PERの低下が相場下落を主導していたことが分かる(図表2)。S&P500指数は成長株の割合が比較的高いため、FRBの金融引き締め観測、具体的には米10年実質金利の上昇が市場予想PERの低下につながっていた。 

市場予想PERの低下が進行中。次に警戒すべきは市場予想EPSの下方修正か?

1929年以降のベアマーケット局面におけるS&P500指数の最大下落率の中央値は約34%だ(図表3)。つまり、高値から20%を超えて下落するような局面では、最大下落率が20%を大幅に上回るケースが多いということになる。では、S&P500指数が今後さらに下落すると「仮定」した場合、何がその下落を主導することになるのだろうか?

当面は、FRBの急激な利上げと量的引き締めによってもたらされる「市場予想PERの低下」がメインシナリオになると考えられる。しかし、景気見通しが本格的に悪化することになれば、次に警戒すべきは「市場予想EPSの低下」ということになる。市場予想EPSは急激な物価上昇やロシアによるウクライナ侵攻、中国のゼロコロナ政策等にもかかわらず、年初来では比較的堅調に推移してきた。今後波乱があるとすれば、(大方の予想に反して)米国企業全体の利益見通しが下方修正される展開だろう。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞歴を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして、主に世界株式市場の投資戦略などを担当。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演。2023年より週刊エコノミスト「THE MARKET」に連載。日本経済新聞ではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


フランス総選挙 極右優勢で金融市場は警戒ムード

軟調な日本株の裏に好調な中国株

NYダウは史上初の4万ドル超え けん引役は意外な銘柄

米商業用不動産ローン問題 米地銀株の受難

米企業決算はS&P500を押し上げる材料になるか?

原油高と物価高が引き起こす米国株の地殻変動