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FRB当局者発言で迷走する米国株式市場
田中 純平
2022/06/27

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概要

先週はセントルイス連銀のブラード総裁が米国経済の景気後退入りを否定し株高の展開となった一方、S&Pグローバル米国PMIが急低下したことを受けて景気減速(後退)懸念が高まり、FRBの利上げペース鈍化観測→株高の展開にもなった。この2つの相反するシナリオは持続不可能であり、「いいとこ取り相場」とも言える足元の状況は相場の警告シグナルかもしれない。



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ブラード総裁発言がマーケットを動かす

先週はセントルイス連銀ブラード総裁の発言がマーケットで注目を集めた。ブラード総裁は20日、「(1994年の引き締めサイクルが)1990年代後半における米国経済の輝かしいパフォーマンスの土台になったと考えている。今回もそのような展開を望んでいる」と述べ、マーケットでくすぶる景気後退懸念を一蹴した。さらに、24日には「米国は景気回復の初期段階にある」とし、「この段階で景気後退に逆戻りするのは通常ないだろう」とさらに踏み込んだ発言を行った。この一連の発言が米国株式市場のセンチメント改善に寄与した可能性は否めない(図表1)。

ブラード総裁は米国連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーの中でもタカ派色が強く、FOMCの投票権も持っているため、市場関係者の注目が集まりやすい。しかし、ブラード総裁の見解はFOMCメンバー全員の総意を反映しているわけでは決してない。実際、先週行われたパウエルFRB議長の議会証言では、「経済のソフトランディング(軟着陸)は非常に難しい」と述べ、急速な利上げが景気後退を招くことについて「確かに可能性はある」と認めており、ブラード総裁の見解とは明らかに異なる。

相反する景気シナリオの共存は持続不可能

先週のS&P500指数の上昇をけん引したもうひとつの材料として、「市場予想を下回った弱い経済指標」が挙げられる。それが23日に発表された6月S&Pグローバル米国購買担当者景気指数(PMI)速報値だ(図表2)。6月米国製造業PMIと6月米国サービスPMIはともに市場予想を下回り、尚且つ前月の水準からも急低下した。

 これを受けて、フェデラル・ファンド金利先物市場ではFRBの利上げ見通しが若干下方修正される展開となった(図表3)。「景気減速(後退)懸念」→「利上げペース鈍化」→「株高」というシナリオは一見すると整合性があるように見えるが、これは明らかに「ブラード総裁による景気後退観測の否定」→「株高」というシナリオと矛盾する。経済の先行きはソフトランディング(景気後退回避)かハードランディング(景気後退突入)のいずれかなので、この2つの相反するシナリオの共存は持続不可能だろう。マーケットが再び「いいとこ取り相場」の様相を呈してきたとするならば、それは相場の警告シグナルかもしれない。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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