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- 「賃金・物価スパイラル」の恐怖 混迷を深める米国株式市場
米鉄道会社と労働組合との労使交渉は9月15日に暫定合意に至り、サプライチェーンの混乱を引き起こす可能性があった大規模ストライキは当面回避された。しかし、米国株式市場では1970年代の「賃金・物価スパイラル」を彷彿とさせる大幅な賃上げ率が嫌気され、同日のS&P500指数は前日比1.13%安の展開となった。
米バイデン政権の仲介もあり米鉄道業界の大規模ストライキは当面回避
全米の貨物鉄道会社を代表して労使交渉を行っていた全米鉄道労務会議(NRLC)は9月15日、これまで交渉が難航していた3つの労働組合と暫定合意に達したと発表した。これによって全12組合との暫定合意が締結されたことになり、警戒されていた鉄道業界における大規模ストライキは当面回避された。
今回の労使交渉には、米バイデン政権も交渉の仲介に入ったと報道されている。仮に交渉が決裂して大規模なストライキが発生した場合、1日当たり20億ドル超の損失になると米国鉄道協会(AAR)は警告していたほか、サプライチェーンの混乱によってインフレ率をより一層高める危険性があった。米中間選挙を控えるバイデン政権にとって、看過できない問題になっていたと推察される。事実、バイデン大統領は「今夜の暫定合意は、我々の経済とアメリカ国民にとって重要な勝利である」との声明を即日発表している。
しかし、バイデン大統領の勝利宣言とは裏腹に、米国株式市場では売り圧力が高まる展開となった(図表1)。
労働組合の発表によれば、14.1%の即時賃上げ(20年までの遡及分含む)に加え、23年は4.0%、24年は4.5%の賃上げが暫定合意され、20年まで遡り年間1,000ドルの特別賞与も5年間支給されることが明らかになった。特別賞与を除いた賃金上昇率は、20年から24年までの年率換算で4.4%にもなり、米連邦準備制度理事会(FRB)のインフレ率の目標値である2%を優に超える(図表2)。FRBがいくら利上げを急いだとしても、鉄道業界における24年までの高水準の賃上げ率は影響を受けないことになる。パウエル議長がジャクソンホール会議で警鐘を鳴らしたのは正にこの点だ。
1970年代の「賃金・物価スパイラル」を彷彿とさせた米鉄道会社の労使交渉
パウエル議長は「歴史が示すように、高インフレ率が賃金や価格の決定において定着するにつれ、インフレ率を低下させるためにかかる雇用のコスト(犠牲)は、遅れて増加する可能性が高い」との見解を示しており、70年代におけるFRBの金融政策の失敗を反面教師としている。今回の鉄道業界における暫定合意内容が他業界にも波及することになれば、いよいよ70年代の「賃金・物価スパイラル」のリスクが現実味を帯びてくる(図表3)。
米国では労働参加率がコロナ前の水準まで回復しない「労働者不足」が深刻だ。ゆえに労働者の交渉力は高く、複数年の賃上げパッケージを要求してくる可能性もある。FRBの利上げに時間的猶予は無い。
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