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- 原油価格のスィートスポット
OPECプラスの共同市場監視委員会(JMMC)は、5日、11月の生産水準に関し日量200万bblの減産を決めた。世界経済減速の観測から供給過剰感が台頭、市況が下落したことが背景だろう。インフレに直面する米国は、原油価格の一段の値下がりを期待しているとの見方が根強い。しかし、世界最大の産油国として、1bbl=80~90ドル台はむしろ好ましい水準なのではないか。
OPECプラス:価格テコ入れのため大幅減産
OPECプラスが200万bblの減産を決めたことで、11月の割当量は、この枠組みに参加していないイラン、リビア、ベネズエラを除くOPEC10ヶ国が日量2,542万bbl、ロシアを中心とする非OPEC10ヶ国が同1,644万bbl、合計4,186万bblとなった(図表1)。
このうち、サウジアラビアとロシアが1,048bblであり、全体の生産計画の50.1%を占める。つまり、JMMCの議論は、この2ヶ国が実質的な決定権を持つと言えるだろう。
今年3月8日にWTI原油先物価格は123.70ドル/bblの高値を付けたものの、7月に入って以降は下落局面になった。FRBをはじめとして日銀を除く主要中央銀行がインフレ抑制のため金融引き締めに転じ、世界景気の先行きに不透明感が台頭したことが背景と考えられる。
OPECプラスとしては、減産により需給バランスを回復させ、原油価格の安定を図る意向だろう。もっとも、このサウジアラビアとロシアの狙いが成功するか否かは、両国を超える世界最大の産油国、米国の動向に懸かっているのではないか。
米国とサウジアラビア:油価安定に関しては呉越同舟
ジョー・バイデン大統領の下、インフレに苦しむ米国は原油備蓄を取り崩して価格の抑制を図ってきた。2020年7月に21億1,764万bblに達していた米国の原油在庫は、足下、16億5,355万bblへと減少している(図表2)。
これは、1日平均にすると57万bblに達する計算であり、極めて規模の大きな在庫の放出と言えるだろう。自動車社会の米国では、ガソリン価格が民意に与える影響は大きい。それだけに、歴史的な備蓄を取り崩して、価格の安定を図ったと見られる。
もっとも、バイデン政権はこれ以上の原油価格の下落を望んでいるとは思えない。2010年代のシェール革命で世界最大の産油国になった米国にとり、現下の国際情勢はウクライナ侵攻で西側の市場を失いつつあるロシアのシェアを奪って、原油、天然ガス・LNGの輸出で荒稼ぎする大きなチャンスだからだ。米国内のシェール事業者が初期投資を回収するには、原油価格が下がり過ぎないことも重要だろう。
WTI先物の場合、今年1月の平均価格は83.15ドル/bblだった。80~90ドル程度であれば、米国の物価に与える油価の影響は年末には概ね中立になる。また、シェール事業者にとっても、採算性が良好な水準と言えそうだ。
それはサウジアラビアにとっても居心地の良いレベルなのではないか。100ドル/bblを超えた場合、主要消費国において化石燃料の使用抑制が加速するだろう。脱石油を遅らせる上でも、欲張り過ぎない姿勢が重要なのではないか。
米国とロシアはウクライナ問題で激しく対立する一方、共にエネルギー大国としては呉越同舟の感も否めない。サウジアラビアは、両国の間でバランスを取りつつ、原油価格を1bbl=80~90ドル台のスィートスポットへ導く意向と見られる。
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