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米国景気後退リスクが高まる
田中 純平
2022/12/09

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概要

11月分の米雇用統計と米ISM非製造業景況感指数の上振れによって、マーケットの関心は12月FOMCでの「利上げペース鈍化」観測から、「ターミナル・レートの引き上げ」と「金融引き締め期間の長期化」観測へシフトした可能性がある。直近発表されたNY連銀が算出する12カ月先の米国景気後退確率は急上昇しており、米国株式市場は神経質な相場展開が今後想定される。



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パウエルFRB議長講演がかく乱要因に

11月30日のパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長講演をきっかけに株価が急騰したことが、そもそも「ミスプライス」だった可能性がある。パウエルFRB議長はその講演で、早ければ12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で利上げペースが鈍化すると示唆し、ターミナル・レート(政策金利の最終到達点)も9月時点の予想よりもやや高めに引き上げられる可能性があると言及した。また、インフレが低下しているかどうかも、単月のデータだけでは判断できないとした。これらは全て従前通りの見解だった。

しかし、米国株式市場の反応は異なった。一部メディアではパウエルFRB議長のコメントが想定よりも「ハト派」だったと報道され、11月30日のS&P500指数はショート・カバー等も相俟って、前日比+3.09%と急騰した(図表1)。だが、真新しい材料が無い中で、S&P500指数の上昇が長続きするわけもなく、その後は反落する展開となった。きっかけは予想外に強い経済指標の発表だ。

米雇用統計と米ISM非製造業景況感指数が株式市場の売り材料に

12月2日に発表された米11月雇用統計は、総じて市場予想を上回る内容となった。非農業部門雇用者数は前月比26.3万人増と市場予想の同20.0万人増を上回ったほか、10月分についても同26.1万人増から同28.4万人増へ上方修正された。さらに、時間当たり賃金も前月比+0.6%と市場予想の同+0.3%を上回り、10月分についても同+0.4%から同+0.5%へ上方修正された。この結果、時間当たり賃金の3か月移動平均は11月に+0.5%まで加速したことから、マーケットでは賃金インフレのリスクが改めて警戒される展開となった(図表2)。

ただ、注意が必要なのは11月の雇用統計における事業所回答率の低さだ(図表3)。11月は回答率が49.4%とおよそ21年ぶりの低さになっており、11月分の雇用統計が遡及して修正される可能性が高い。どちらの方向に修正されるかは判断できないが、次回の雇用統計では前月分の修正にも目が離せなくなった。

そして、市場の警戒をさらに高めるきっかけになったのが米ISM非製造業景況感指数だ(図表4)。11月は56.5と市場予想の53.5を大きく上回り、前月の54.4から上昇する結果となった。これら一連の力強い経済指標の発表を受けて、マーケットの関心は12月FOMCでの「利上げペース鈍化」観測から、「ターミナル・レートの引き上げ」と「金融引き締め期間の長期化」観測へシフトした可能性がある。株価が反落した理由はおそらくここにあるだろう。

NY連銀の米国景気後退確率が急激に上昇

さらに警戒が必要なのは、来年の米国景気後退リスクだ。足元では力強い経済指標が相次いで発表されたが、ターミナル・レートがさらに引き上げられ、金融引き締め期間が長期化することになれば、将来的な景気後退リスクはその分高まることになる。実際、NY連銀が長短金利差から算出する12カ月先の米国景気後退確率は、景気後退入りの境目と考えられる30%の水準を超え、23年11月時点で38%まで上昇した(図表5)。米国株式市場は、神経質な相場展開が今後想定される。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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