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- 日銀は出口に近付いたのか?
12月19、20日の政策決定会合で、日銀は金融政策の運用見直しを決めた。市場は実質的な利上げと受け止め、円は高値を試す展開になっている。もっとも、同時に長期国債の買入れ増額を決めており、日銀の意図は伝わり難い。出口戦略と言うよりは、政治が日銀に求める円安対応と国債の安定消化の二律背反に対し、配慮した結果と言えるのではないか。
イールドカーブ・コントロールの運用見直し:円安対応・国債消化 政治的配慮の可能性
第2次大戦下の1942年、戦時公債の安定消化のため、FRBは「イールドカーブ・ターゲッティング」を採用した。出口戦略には苦労したが、1951年3月4日、ハリー・トルーマン大統領の仲介で『財務省・FRB合意』(アコード)が結ばれ、FRBは金融政策を正常化させている(図表1) 。
一方、1945年に発行した2.50%の利付長期国債190億ドルのうち、136億ドル分を額面2.75%の利付非市場性国債に交換、政府は利払い費の固定化を図ることができた。長短金利差が1%程度開いており、非市場性国債の利回りが魅力的だったからだろう。
この米国の経験が日銀の出口戦略にも応用できるとの見方は少なくない。ただし、イールドカーブ・コントロールの下で長短金利差がなく、仮に市場実勢より表面利率を高めて非市場性国債を発行しても、金融機関にとって保有する魅力はなさそうだ。そこで、イールドカーブを右肩上がりにすることが、今回の政策運用見直しの背景との考え方も成り立つだろう。
もっとも、政府債務残高対GDP比率が262%に達し、生産人口が年1%程度のペースで減少しているなかで、多少の割り増し金利により、金融機関、年金基金などが非市場性国債に資金を固定化させるとは考え難い。むしろ、円安対応と国債の低コストによる安定消化・・・2つの相反する役割を負った日銀にとり、苦肉の策がイールドカーブ・コントロールを維持したまま、10年国債利回りの変動幅を拡大、その上で長期国債の購入量を増やすとの決定だったのではないか。
利上げ観測の高まりから、10年国債利回りは0.5%近辺に張り付くものと見られ、日銀は連続指値オペで吸収し続けざるを得ないだろう。それは、日銀当座預金の増加を通じて、マネタリーベースの供給量を拡大させる。実質的な量的緩和の強化により、出口戦略はさらに難易度を増すだろう。
円相場:次の焦点は次期総裁候補の国会答弁
3月のFOMCでFRBが最初の利上げを行って以降、円は対ドルで急落した(図表2)。
日銀はゼロ金利政策を堅持する姿勢を示し、日米短期金利差の拡大が背景だ。しかし、足元はFRBの利上げが峠を越えつつある一方、日本の金利上昇観測が高まったことで、当面、円は高値を探る動きとなろう。
ただし、今回のイールドカーブ・コントロールの運用見直しにおいて、日銀は短期金利の誘導水準をゼロ%で据え置いた。出口戦略が容易ではないとの観測が広がった場合、円が新たな下落局面を迎える可能性は否定できない。
タイミングで重要なのは2、3月である。4月8日に任期満了を迎える黒田総裁の後任候補は、1月下旬に召集される通常国会で衆参両院の同意を得る必要があるからだ。参考人として質問に答える際、次期総裁候補が現在の金融緩和に対しどのようなスタンスを示すのか、それにより円相場は大きく影響を受けることが予想される。
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