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米国株式市場の「楽観」、米国債券市場の「悲観」
田中 純平
2023/02/20

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概要

本来は連動性の高いS&P500指数の市場予想PERと、米国10年実質金利の動きに乖離が目立つ。インフレ懸念の再燃を背景に米国債券市場が「悲観」に傾く中、米国株式市場はいまだ「楽観」に傾斜しているようだ。



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インフレ懸念が再燃

2月10日(金)終値から2月17日(金)終値までS&P500指数は0.28%下落した(図表1)。

投資家の注目を集めたのは2月14日(火)に発表された米国1月CPI(消費者物価指数)だ。同指数は前年比+6.4%と市場予想の同+6.2%を上回ったほか、変動の大きいエネルギーと食品を除いたコアCPIも同+5.6%と市場予想の同+5.5%を上回った。主要品目を見ると、「食品」が前月の同+10.4%から今月は同+10.1%へやや減速したが、「エネルギー」は前月の同+7.3%から今月は同+8.7%へ加速した。コアCPIでは、「住居以外」が前月の同+4.4%から今月は同+4.0%へやや減速したが、「住居」は前月の同+7.5%から今月は同+7.9%へやや加速した。コアCPI全体の43%を占める「住居」の加速が、引き続きコアCPI全体を押し上げる格好となった。

一方、インフレの基調を表す米国クリーブランド連銀が算出する米国総合CPIの中央値は前月の同+7.0%から今月は同+7.1%へやや加速したほか、米国アトランタ連銀が算出する粘着性の高い品目を集めた米国総合Sticky CPIは前月の同+6.7%から今月は同+6.7%と高止まりの状態となった(図表2)。

米国総合CPIは昨年6月の同+9.1%をピークに足元では鈍化傾向にあるものの、この2つの指標(米国総合CPI中央値と米国総合Sticky CPI)からはインフレがピークアウトする兆しはいまだ見られない。

年後半の利下げ期待は後退

米国の1月雇用統計や1月CPI に加え、1月小売売上高、1月PPI(生産者物価指数)がいずれも市場予想を上回ったことから、市場ではインフレ懸念が再燃する展開となった。このため、フェデラル・ファンド(FF)金利先物市場では、FRB(米国連邦準備制度理事会)による年後半の利下げ期待が急速に後退した(図表3)。

S&P500指数の市場予想EPS(1株当たり利益、12カ月先)は年初来で下方修正されているため、年初来の株価上昇は市場予想PER(株価収益率、12カ月先)の上昇によってもたらされたことになる。市場予想PERが上昇した背景には、FRBの「利上げ打ち止め」+「年後半の利下げ」期待による「金融政策要因」に加えて、米国経済や欧州経済の「ソフトランディング(軟着陸)」期待や中国経済の「リオープン(経済再開)」による回復を先行して織り込む「マクロ経済要因」が重なったと考えられる。しかし、足元では金融緩和観測は後退しており、金融引き締め期間が長期化することで米国経済の下振れリスクも高まりかねない状況となっている。

気掛かりなのは、S&P500指数の市場予想PERと米国10年実質金利とのギャップだ(図表4)。

過去約5年間の推移を見ると、2018年から2022年にかけては市場予想PERと米国10年実質金利にある程度の逆連動性が見られたが、今年は米国10年実質金利が上昇する中、市場予想PERも上昇する同方向の連動の動きが起こっている。米国10年実質金利がFRBの利上げ見通しの上方修正を正しく反映(債券市場が悲観視)しているとするならば、株式市場のバリュエーションのほうが逸脱(株式市場が過度に楽観視)しているとも解釈できる。米国株式市場の「楽観」と米国債券市場の「悲観」が共存する局面は、そう長くは続かない可能性がある。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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