Article Title
SVB破綻の余波 金融不安は払拭されたのか?
田中 純平
2023/03/14

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

SVB(シリコン・バレー・バンク)の経営破綻を受けて米国株式市場では金融不安が広がっている。米当局は破綻銀行の全預金保護とFRBによる緊急融資枠の新設を発表したが、3月13日(月)の米国株式市場で地銀株の下落が止まることは無かった。市場では早くもFRBの利下げ観測が高まっているものの、今週発表の物価指標や来週の3月FOMCの結果を精査する必要があるだろう。



Article Body Text

SVB破綻対応で米当局は預金全額保護を発表、FRBは緊急融資枠を新設

SVB(シリコン・バレー・バンク)が経営破綻した3月10日(金)からわずか2日後の12日(日)、米財務省、FRB(米連邦準備制度理事会)、FDIC(米連邦預金保険公社)は共同声明でSVBの預金全額を保護する異例の措置を発表した。さらに、FRBは米国債やMBS(住宅ローン担保証券)などを担保に流動性を供給する緊急融資枠も新設した。これを受け、13日のS&P500指数は前日比0.15%安にとどまったが(図表1)、地銀株の下落が止まることは無かった。

特に下落が目立ったのは、SVBと同様に預金保険対象外の預金を多く抱える米ファースト・リパブリック・バンクだ(図表2)。米当局による全預金保護の対象となる銀行は、SVBと12日に破綻したシグネチャー・バンクの2行のみであり、経営破綻に陥らない限り全預金保護は適用されない。米国株式市場では「次のSVB」探しが始まっており、悲運にもファースト・リパブリック・バンクがそのターゲットとなってしまった可能性がある。

そもそも、今回の一連の措置はあくまで預金者保護と銀行への流動性供給が主軸であり、銀行救済が目的ではない。イエレン米財務長官も公的資金による救済は考えていないと明言しており、これがかえって市場の不安を煽ってしまった可能性もある。ファースト・リパブリック・バンクは12日、今回の緊急融資枠とは別に、FRBと米銀最大手JPモルガン・チェースから追加の与信枠を確保したと発表していたが、それでも投資家の懸念を払拭することはできなかったと推察される。

金融環境指数のタイト化はまだ初期段階

2023年3月10日時点における破綻銀行の総資産額はたった1行(SVB)で2,090億ドルにもなり、すでに2009年の水準(1,709億ドル)を超えている。一方、2009年当時の破綻銀行件数は140行にものぼることから、今後さらに破綻銀行が増加してもおかしくない状況だ(図表3)。

ヒントになるのは米国金融環境指数だ(3月7日発行の筆者レポート『「嵐の前の静けさ」か?米国金融環境指数は依然緩和的』では、週次のシカゴ連銀米国金融環境指数を使用したが、今回は速報性が高い日次のブルームバーグ米国金融環境指数を使用)。ブルームバーグ米国金融環境指数は3月10日にプラスの「緩和的」からマイナスの「引き締め的」へタイト化したばかりであり、まだタイト化の初期段階だと言える(図表4)。この指数がさらにマイナス(引き締め)方向へ進んだ場合、破綻銀行の数も増えることが予想されるため警戒が必要だ。

FRBの利下げ期待が急速に高まる

SVB破綻をきっかけとした金融不安を背景に、フェデラル・ファンド金利のターミナル・レート(利上げの最終到達点)の市場予想は3月8日時点の約5.7%から13日時点の約4.8%へ急低下したほか、年後半の利下げ観測も急速に高まっている(図表5)。

しかし、今週は2月米CPI(消費者物価指数)や2月米PPI(生産者物価指数)など重要な物価指標の発表を控えているほか、来週のFOMC(米連邦公開市場委員会)ではSVB破綻を受けてFRBの金融政策スタンスがどう変化したか精査する必要がある。米国株式市場の先行きについては引き続き慎重に見る必要があるだろう。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


米半導体株に忍び寄る「米中貿易戦争」の影

米国株「トランプ・トレード」が爆騰

なぜ米10年国債利回りは急上昇したのか?

S&P500指数にみる「原子力ルネサンス」

米利下げでS&P500指数はどうなる?

なぜ生成AI(人工知能)関連株は急落したのか?