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安全資産への資金退避が加速 マネー委縮に警戒
田中 純平
2023/03/28

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概要

米国の中小銀行では過去最大となる約1,200億ドルもの預金が流出した。米国の商業銀行はFRBからの借入を増やしており、不測の事態に備えてキャッシュを温存している。また、流出した預金の一部は米国ガバメントMMFへ流入した可能性があり、純資産残高は1週間で1,318億ドルも急増した。安全資産への資金退避は「マネー委縮」につながりかねないため注意を要する。



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UBSによるCS救済買収等をきっかけにS&P500指数はやや値を戻す展開

先週1週間のS&P500指数は、UBSによるクレディ・スイス・グループ(CS)救済買収等をきっかけに前週比1.39%高となり、やや値を戻す展開となった(図表1)。しかし、今回の金融不安のきっかけとなった米地銀株で構成されるS&P地銀株指数は同0.85%高にとどまっており、本格的な回復局面に入ったとは言い難い。

3月24日に発表された9~15日の米国中小銀行における預金流出額は、統計開始以来で過去最大の約1200億ドルとなった。一方、米国大手銀行の預金は約666億ドルの流入超となっており、中小銀行から大手銀行へ預金が急激にシフトしたことがうかがえる。しかし、大手銀行で預金が流入したのは1月19~25日以来の出来事であり、これまで預金が流出していたのはむしろ大手銀行のほうだった(図表2)。

大手銀行で預金が流出へ転じ始めたのは2022年からだ。背景には、米国連邦準備制度理事会(FRB)の利上げによる影響(利回りの高いMMF等への資金シフト)や、コロナ禍で支給された給付金など一連の景気刺激策に伴う「過剰貯蓄」の取り崩し、などが挙げられる。そこへ今回の金融不安をきっかけとした中小銀行の預金流出が重なった格好だ。

3月9~15日時点の米国中小銀行全体の負債増減(前週比)を見ると、「預金」が1,200億ドルのマイナスとなった一方、FRBの流動性供給などの「借入」が2,524億ドルのプラスになっており、綱渡りの状態だったことが分かる(図表3)。また、資産増減(前週比)では「現金資産」が967億ドルのプラスとなっており、不測の事態に備えてキャッシュが温存されている様子が窺い知れる。

一方、米国大手銀行の負債増減(前週比)では、「預金」が666億ドルのプラスとなったほか、中小銀行のような預金流出が起こっていないはずの大手銀行でも「借入」が2,510億ドルのプラスになった(図表4)。また、資産増減では中小銀行と同様に「現金資産」が3,051億ドルもプラスになっており、大手銀行においても流動性逼迫に備えた対応が取られている。

預金の一部は米国ガバメントMMFへ流入か?

米国の中小銀行から大手銀行へ預金の一部がシフトしたことに加えて、米国ガバメント・マネーマーケット・ファンド(MMF)にも一部資金がシフトした可能性がある。3月22日時点の米国ガバメントMMFの純資産残高は約4.3兆ドルとなっており、前週から1,318億ドルも残高が急増した(図表5)。

そもそも米国MMFには、主に米財務省証券等で運用するガバメントMMF、主にコマーシャル・ペーパー(CP)や譲渡性預金(CD)等で運用するプライムMMF、主に地方債等で運用する地方債MMFの3種類がある。中でもガバメントMMFは最も安全な短期金融資産と見なされており、預金の受け皿として資金が殺到した可能性がある。また、MMFの利回りは概ね4%前後であるのに対し、22日時点の貯蓄預金の利回りは0.23%(出所:バンクレート)となっていることも、その誘因となったと考えられる。このような一連の資金退避は、金融市場全体の「マネー委縮」につながりかねないため、注意を要するだろう。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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