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米銀大手決算は「全貌」を語らず
田中 純平
2023/04/18

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概要

4月14日(金)に発表された注目の米銀大手決算は、純金利収入が上振れたこと等から市場予想を上回る内容となった。しかし、全般的に預金流出傾向は変わらず、与信費用も増加傾向になるなど、将来的なリスク要因は燻り続けている。株価が低迷する米地銀株の決算発表は今週から本格化するため、米銀大手以上に注目を集めることになるだろう。



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米PPIの下振れが株高要因に

4月14日(金)終値のS&P500指数は前週末比で0.79%高の4137.64ポイントとなり、今年2月2日(木)の年初来高値(終値)である4179.76ポイント間近まで上昇した(図表1)。

米地銀株の低迷が続く中、株価上昇のきっかけとなったのは、市場予想を下回った米3月生産者物価指数(PPI)だった。13日(木)に発表された米3月PPIは、前月比マイナス0.5%と市場予想の同0.0%を大幅に下回ったほか、同コアPPIも同マイナス0.1%と市場予想の同プラス0.2%を下回った。これを受けて、米国株式市場ではディスインフレと企業の収益性改善に対する期待感が高まり、S&P500指数は前日比1.33%高となった。

一方、注目された14日の米銀大手決算は総じて好調な内容となったが、S&P500指数をプラス圏まで浮上させるには力不足だった(同日のS&P500指数は前日比0.21%安)。

寄り前に決算を発表したJPモルガン・チェース、シティグループ、ウェルズ・ファーゴの中で、特に好調な決算を発表したのはJPモルガン・チェース(株価前日比7.55%高)とシティグループ(同4.78%高)であり、決算発表後の株高によって金融不安前の株価水準まで値を戻す展開となった(図表2)。

堅調な純金利収入等がサプライズ決算につながる

JPモルガン・チェースの23年1-3月期の純金利収入は前期比2.6%増、前年同期比49.3%増の約207億ドルと好調で、調整後1株当たり利益(EPS)は4.10ドルと市場予想の3.38ドルを大幅に上回った(図表3)。主に金利上昇が純金利収入全体を押し上げる格好となり、同時に発表した純金利収入の通年ガイダンスも従来予想の約730億ドルから約810億ドルへ上方修正された。

シティグループの23年1-3月期の純金利収入は前期比0.6%増、前年同期比22.8%増の約133億ドルとなり、調整後EPSは1.86ドルとこちらも市場予想の1.65ドルを大きく上回った。純金利収入の増加は、金利上昇と米国パーソナル・バンキングにおける貸出増等が要因となった。

一方、預金残高はJPモルガン・チェースで前期比1.6%増の約2.4兆ドルとなったが、シティグループは同2.6%減の約1.3兆ドル、ウェルズ・ファーゴは同1.5%減の約1.4兆ドルとなり明暗が分かれた(図表4)。しかし、JPモルガン・チェースは金融不安直後の預金流入を一過性と判断しており、前述した通年ガイダンスでは年後半における預金流出を想定している。米銀大手全体の預金流出傾向は、当面変わらないことが示唆される。

本格化する米地銀決算に注目

米銀大手決算は今のところ好調だが、米地銀の1-3月期決算発表はこれからであり、特に株価が急落した地銀株はいつも以上に注目を集めることになるだろう(図表5)。

市場予想を上回る決算となれば短期的なリリーフラリー(安堵感からの株高)も想定される。しかし、米銀大手においても与信費用がすでに増加傾向にあることから、(仮に株高になったとしても)預金や与信費用の動向には目を向ける必要があるだろう。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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