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- 米スーパーコアCPI鈍化に反して米インフレ期待は加速
パウエルFRB議長が注目する米スーパーコアCPI(コア・サービス除く住居)の伸び率が鈍化したことから、市場ではディスインフレへの期待が高まった。しかし、後日発表された米ミシガン大学の消費者調査(速報値)では5~10年先の米インフレ期待が加速しており、米国の物価動向には再び暗雲が漂い始めている。
米スーパーコアCPIの低下が米国株式市場で好感される
先週1週間のS&P500指数騰落率は前週比でマイナス0.29%となり、続落する展開となった(図表1)。
5月10日は注目された米4月CPI(消費者物価指数)が発表された。米4月総合CPIは前年同月比プラス4.9%と市場予想の同プラス5.0%を下回り、米4月コアCPIは同プラス5.5%と市場予想の同プラス5.5%と一致した。総合CPIは市場予想を下回ったが、米国株式市場が好感したのはむしろパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が注目するスーパーコアCPIの鈍化だ(図表2)。
明確な定義は無いものの、スーパーコアCPIは一部の市場関係者の間で使用される名称(パウエル議長は「コア・サービス除く住居」と呼んでいる)で、サービスCPIからエネルギー・サービスと住居を除いたものと概ね解釈されている。パウエル議長は昨年11月の講演でこの指標に言及し、今後の物価動向を見極めるうえで最も重要なカテゴリーだと説明した。その4月スーパーコアCPIは前年同月比プラス5.1%となり、前月の同プラス5.8%から伸び率が鈍化したことを受けて、当日のS&P500指数は前日比プラス0.45%の上昇となった。
その一方で5~10年先の米インフレ期待は加速
FRBは昨年3月から今年5月にかけて政策金利を計5%引き上げるなど、急ピッチな金融引き締め政策によってインフレ抑制に努めてきたが、個人のインフレ期待はむしろ上昇している。5月12日に発表された米ミシガン大学の5月消費者調査(速報値)では、5~10年先のインフレ期待(中央値)がプラス3.2%と前月のプラス3.0%から加速し、コロナショック以降で最も高い水準となった(図表3)。2023年1月11日に発行した筆者レポート(米インフレ・ピークアウト観測の「死角」)でも指摘した通り、変動性の高い5~10年先のインフレ期待の「平均値」は加速傾向にあったことから、いつ5~10年先のインフレ期待の「中央値」が上振れしてもおかしくない状況だったと言えよう。
おそらくFRBが最も恐れていることは、長期のインフレ期待が2%のインフレ目標に収斂しないリスクだろう。そもそも、FRBは「物価の安定」と「雇用の最大化」という2つの責務(デュアル・マンデート)を課せられている。そのうちの一つが達成できなくなるということは、中銀としての「信認の喪失」につながりかねず、金融政策運営がますます困難になる恐れがある。実際、1970~80年代における高インフレの抑制に失敗したFRBは、フェデラル・ファンド金利を最大20%まで引き上げる荒療治を行った。
当時の失敗を繰り返さないことを強調していたパウエル議長だが、足元の米総合CPIの推移は1970年代の動きに不気味と近似する(図表4)。インフレが再加速することを防ぐには、当面の間、FRBは金融引き締め政策を維持せざるを得ないのではないだろうか。だとすれば、年内利下げを期待する米国株式市場は、思わぬ形ではしごを外されるリスクがあると言える。
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