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米長期金利が急上昇 米国株に迫る未曾有の試練
田中 純平
2023/07/10

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概要

本レポートでは、米国10年国債利回りがなぜ足元で急上昇したのかを分析するとともに、米実質金利の上昇が米国株式市場へもたらす影響についても考察する。さらに、米国実質GDP成長率における市場予想の推移が今年と来年で乖離している点にも触れ、投資へのインプリケーションについて解説する。



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米国10年国債利回りが4%台へ突入

先週のS&P500指数における週間騰落率は1.16%安となり、6月30日(金)につけた年初来高値から反落する展開となった(図表1)。背景にあるのは米国長期金利の急上昇だ。

米国10年国債利回りの上昇は、複合的な影響によるところが大きい。6月29日(木)に発表された独ノルトライン・ウェストファーレン州の消費者物価指数(CPI)の加速、市場予想を上回ったスペインCPIや米23年1-3月期の実質国内総生産(GDP)成長率の確定値、7月5日(水)に発表された6月米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨で改めて連銀のタカ派姿勢が確認されたことに加え、7月6日(木)に発表された市場予想を上回る6月米ADP雇用統計や米ISMサービス業景況感指数など、様々な要因が指摘される。

また、米バンク・オブ・アメリカのファンドマネージャー調査からも明らかなように、そもそも米国債をオーバーウェイトとする機関投資家が多かったことも、ポジション調整による米国債の売り(金利上昇)圧力を高めるきっかけになった可能性があり、米国10年国債利回りは7月6日(木)に4%台へ突入した(図表2)。

米実質金利は2009年以来の水準まで急上昇

大方の予想を上回る米国経済指標の発表を受けて、米国実質GDP成長率の市場予想も上方修正が続いている。2023年の実質GDP成長率の市場予想は、今年5月末時点の前年比+1.1%から7月7日時点は同+1.3%まで、およそ0.2%ポイント上方修正された(図表3)。

堅調な米国経済は実質金利の上昇というかたちでも表れている。米国10年国債利回り(名目金利)から期待インフレ率を差し引いた米国10年物価連動国債利回り(実質金利)は今年6月時点で概ね1.5%台で推移していたが、7月7日時点では1.80%と2009年以来の水準まで急上昇した。

従前から指摘しているように、米国10年実質金利はS&P500指数の市場予想株価収益率(PER)と密接に関わっている。一般的には、実質金利が低下するとPERは上昇し、反対に実質金利が上昇するとPERは低下する傾向にある。しかし、2020年から2022年にかけても同様な傾向が見られたものの、2023年は両者の乖離が目立っている(図表4)。生成人工知能(AI)ブーム等による超大型成長株の急騰が多分に影響していることが推察されるが、(タイミングは予測不可能だが)ブームが去った後に待ち構えているものはPERの低下ではなかろうか。

前述した米国実質GDP成長率の市場予想には、興味深い現象も見られる。2023年の見通しは上方修正されているが、2024年の見通しは反対に下方修正されている。金利上昇や商業銀行における融資基準の厳格化等が、時間差を伴って来年の景気を冷やすと市場関係者は想定している可能性がある。投資家の投資ホライズン(投資期間の長さ)の違いによって、見える景色が異なる可能性がある点には留意が必要だろう。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞歴を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして、主に世界株式市場の投資戦略などを担当。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演。2023年より週刊エコノミスト「THE MARKET」に連載。日本経済新聞ではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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