Article Title
米国株の利益見通し V字回復シナリオに黄信号?
田中 純平
2023/11/13

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

米国企業の23年7-9月決算は総じて好調だが、23年10-12月期のEPSガイダンスは市場予想を下回る割合が高まっている。米国企業全体の23年10-12月期の市場予想EPS成長率も下方修正されており、特に景気感応度が比較的高い業種である情報技術や一般消費財・サービス、資本財・サービスで、EPSガイダンスが下振れるケースが目立つ。



Article Body Text

米国企業全体の1株当たり利益は急回復する見通し

米国企業(S&P500指数の構成銘柄)の23年7-9月期決算は総じて好調だ。市場予想を上回る1株当たり利益(EPS)を発表した企業の割合を示すポジティブEPSサプライズ比率は、11月9日時点で約82%と、直近4四半期の平均約74%を上回るペースとなっている(図表1)。

この結果、米国企業全体の23年7-9月期における市場予想EPS成長率は、9月29日時点の前年同期比-1.0%から、直近11月10日時点は同+3.8%へ大きく上方修正された。このまま市場予想EPS成長率がプラス圏で確定すれば、米国企業全体のEPS成長率は4四半期ぶりにプラス成長へ回帰することになる(図表2)。

来年はさらに成長率が加速することが予想されている。24年1-3月期は同+7.5%、4-6月期は同+11.1%、7-9月期は同+10.0%、10-12月期は16.0%と、24年4-6月期から10-12月期にかけては二桁台の高い成長率が見込まれている。

S&P500指数は、乱高下する実質金利を背景に値動きの荒い展開となっているものの、市場予想EPS成長率が来年にかけてV字回復する見通しとなっていることが、(投資家にとって)米国株への投資を正当化する「拠り所」になっていると言えよう。

米国企業のガイダンスは市場予想を下回るケースが相次ぐ

一方、23年10-12月期の市場予想EPS成長率が下方修正されている点には注意が必要だ。一部の米国企業が発表したガイダンス(業績見通し)が市場予想を下回るケースが相次いでおり、23年10-12月期の市場予想EPS成長率は9月29日時点の同+7.5%から、直近11月10日時点は同+3.3%へ下方修正された。また、24年1-3月期と4-6月期についてもわずかながら下方修正が入り始めている(図表3)。

実際、次の四半期決算のEPSガイダンスが市場予想を下回った数は92社中46社となっており、全体の50%を占める、これは直近4四半期の平均46%を上回るペースだ(図表4)。

ネガティブEPSガイダンスを発表した米国企業の業種別構成比をみると、情報技術(IT)が最も高く、次いで一般消費財・サービスと資本財・サービスが並ぶ。景気感応度が比較的高い業種でネガティブEPSガイダンスが多くなっており、景況感がやや悪化していることが推察される(図表5)。

個別企業では、10月24日引け後に発表された半導体大手テキサス・インスツルメンツ(TI)の23年7-9月期決算が象徴的だ。調整後EPSは1.85ドルと市場予想の1.82ドルを上回ったものの、23年10-12月期のEPSガイダンスを1.35~1.57ドルとし、市場予想の1.76ドルを大幅に下回ったことから、翌日のTI株は前日比3.49%安となった。同社は決算発表後の記者会見で、特定産業に言及することなく全般的な半導体需要の弱さを指摘、TI以外の半導体株も連れ安の展開となった。

米国企業利益のV字回復シナリオには黄信号が灯っている可能性がある。

 


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


史上最高値を更新したS&P500に死角はないのか?

米半導体株に忍び寄る「米中貿易戦争」の影

米国株「トランプ・トレード」が爆騰

なぜ米10年国債利回りは急上昇したのか?

S&P500指数にみる「原子力ルネサンス」

米利下げでS&P500指数はどうなる?