Article Title
最高値更新のS&P500均等加重指数が示唆するもの
田中 純平
2024/03/18

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

エヌビディアを中心とした生成AI関連銘柄が短期間で急騰し、S&P500指数の市場予想PERも足元では20.8倍になるなど、一部ではバブルを指摘する声もある。しかし、米国株全体の動向がより反映されやすいS&P500均等加重指数を見る限り、その兆候は見られない。



Article Body Text

最高値を更新したS&P500均等加重指数とは?

米国株式市場の代表的な株価指数であるS&P500指数は時価総額加重方式を採用する。浮動株調整後の時価総額が大きい銘柄ほど組入比率が高くなるように設計されており、組入上位銘柄にはマイクロソフトやアップル、エヌビディアといった超大型株が並ぶ。

一方、S&P500指数には全構成銘柄の組入比率を均等にしたS&P500均等加重指数という株価指数もある。株価は日々変動するため、四半期ごとに組入比率を均等に直す調整(リバランス)を行っている。

均等加重指数は、超大型株の株価変動による影響を受けにくいことがメリットだ。S&P500指数では、マグニフィセント・セブンと呼ばれる超大型株7銘柄(マイクロソフト、アップル、エヌビディア、アマゾン・ドット・コム、メタ・プラットフォームズ、アルファベット、テスラ)が2023年以降の株価上昇をけん引した。一方、S&P500指数から上記7銘柄を除いた残りの493銘柄のパフォーマンスは総じて冴えない状況が続き、「二極化現象」がしばしば問題視されてきた。この状況を端的に表しているのがS&P500指数とS&P500均等加重指数のパフォーマンス格差だ。ちょうど2023年あたりからS&P500指数のパフォーマンスがS&P500均等加重指数のパフォーマンスを大きく上回っていたことが分かる(図表1)。

しかし、この状況にも変化の兆しが表れ始めている。S&P500均等加重指数は今年3月7日に終値で最高値を更新し、S&P500指数が終値で最高値を更新した今年1月19日時点から遅れること2カ月弱で新高値をつけた。また、S&P500トータル・リターン(配当込み)指数では昨年12月13日に最高値更新した一方、S&P500均等加重トータル・リターン指数は昨年12月26日に最高値を更新しているので、トータル・リターン指数で比較するとその差はさらに短縮される。パフォーマンス格差こそまだ縮まっていないが、幅広い銘柄群のパフォーマンスが改善傾向にあることはポジティブに捉えられる。

S&P500均等加重指数に割高感は見られない

足元の市場予想PER(株価収益率、12カ月先)が20.8倍のS&P500指数と違い、S&P500均等加重指数の市場予想PERは17.2倍と絶対水準で見て割高感が無いことも特徴的だ(図表2)。

この2つの指数はセクター別構成比に大きな違いがあり、特に市場予想PERが比較的高い情報技術セクターの組入比率が大きく異なる点は留意が必要だ(2024年2月末時点でS&P500指数は29.8%、S&P500均等加重指数は13.3%)(図表3)。

しかし、2020年から2021年にかけては両指数とも20倍台で推移していたことを考慮すれば、情報技術セクターの構成比の違いを加味しても、S&P500均等加重指数に特段の割高感は無いと言えるだろう。やはり、米国株のバリュエーションを押し上げたのは主にマグニフィセント・セブンであり、それ以外の銘柄群ついては特に神経質になる必要は無いのかもしれない。

情報技術以外のセクターも最高値を更新中

S&P500均等加重指数におけるセクター別株価指数の推移を見ても、株価上昇のけん引役が広がり始めている。実は生成AI(人工知能)ブーム等をきっかけに上昇した情報技術以外にも、ヘルスケアや資本財・サービス、エネルギーが直近最高値を更新している(図表4)。

これらのセクターにおける株価騰落率(年初来)上位銘柄を見ると、エヌビディアやアドバンスド・マイクロ・デバイセズといった生成AI関連銘柄以外にも、腎臓ケアサービス等を提供するダビータや肥満症治療薬等を手掛けるイーライリリー、コングロマリットのゼネラル・エレクトリックや電気管理事業等を手掛けるイートン、石油製品の精製等を行うマラソン・ペトロリアムや同業のバレロ・エナジーなど、実に多種多様な銘柄の株価が大きく上昇していることが分かる(図表5)。

エヌビディアを中心とした生成AI関連銘柄が短期間で急騰し、S&P500指数の市場予想PERも足元で20.8倍になるなど、一部ではバブルを指摘する声もある。しかし、米国株全体の動向がより反映されやすいS&P500均等加重指数を見る限り、その兆候は見られない。むしろ、生成AI関連だけでなく、幅広い銘柄群に投資家の物色が広がりつつあることは、素直に評価されるべきことなのかもしれない。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


史上最高値を更新したS&P500に死角はないのか?

米半導体株に忍び寄る「米中貿易戦争」の影

米国株「トランプ・トレード」が爆騰

なぜ米10年国債利回りは急上昇したのか?

S&P500指数にみる「原子力ルネサンス」

米利下げでS&P500指数はどうなる?