Article Title
米企業決算はS&P500を押し上げる材料になるか?
田中 純平
2024/04/30

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

S&P500指数は4月に入ってから軟調な展開となっている(図表1)。中東情勢における緊張感はやや緩和したものの、一部の半導体関連企業の決算やガイダンスが市場予想を下回ったことに加えて、米国ではインフレ再加速に対する警戒感が高まっていることなどがその要因だ。FRBの利下げ期待が後退する中、今後の焦点は米国企業の決算動向になるだろう。



Article Body Text

FRBの利下げ観測後退でS&P500指数の市場予想PERが低下

4月10日に発表された米国の3月CPI(消費者物価指数)は前年同月比+3.5%(市場予想は同+3.4%)、前月比+0.4%(市場予想は同+0.3%)と市場予想対比で上振れた。また、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長らが注目するスーパーコアCPI(コア・サービス除く住居)も、前年同月比+4.8%、前月比+0.7%と前月から再加速した(図表2)。

これを受けて、パウエルFRB議長の発言もトーンが変わってきた。パウエル氏は4月3日のスタンフォード大学での講演で「年内どこかの時点で政策金利の引き下げを開始するのが適切になる可能性が高い」とのハト派(金融緩和的な)メッセージを発信していたが、4月16日のワシントンでのパネル討論会では「必要な限り現在の引き締め的な水準を維持する」とタカ派(金融引き締め的な)メッセージへ転換した。

さらに、4月25日に発表された米国の1-3月期コアPCE(個人消費支出)価格指数は前期比年率+3.7%(市場予想は同+3.4%)となったほか、スーパーコアPCEも同+5.1%と前期の同+2.6%から2倍近い伸び率となった。ここにきてインフレ再加速シナリオが現実味を帯びてきた格好だ。

市場ではFRBによる年内の利下げ期待が急速に低下しており、3月CPI発表前の年内2.7回の利下げ回数予想は4月26日時点で1.4回へ下方修正された。

この結果、S&P500指数の市場予想PER(株価収益率、12カ月先)は一時20倍を割り込む展開となった(図表3)。2019年以降の推移を見ると、市場予想PERが20倍を超えていた時期はFRBの金融緩和局面と概ね一致する。金融緩和が当面期待できない環境になれば、S&P500指数の市場予想PERに低下圧力がかかったとしても不思議ではないだろう。

企業決算がますます重要に

株価はPERとEPS(1株当たり利益)の掛け算で決まる。インフレ再加速→金融緩和期待の後退→PER低下となれば、株価を押し上げるにはPERの低下以上にEPSが伸びる必要がある。

S&P500指数構成企業の24年1-3月期決算は、4月26日時点で全体の46%が発表済みだ。EPSの実績値と予想値をブレンドした24年1-3月期の市場予想EPS成長率(前年同期比)は、4月12日に一時+2.0%へ下方修正される場面もあったが、4月26日には一転して+4.7%へ上方修正された(図表4)。

さらに、24年通年の市場予想EPS成長率は前年比+9.1%の成長が想定されており、こちらも4月12日時点の+8.6%からやや上方修正された(図表5)。

上方修正された要因は、メタ・プラットフォームズやアルファベット、マイクロソフトといった超大型成長株の決算上振れだ。生成AIブームが一部の大手IT企業の業績を押し上げる構図が改めて確認される内容となった。米国株式市場は当面、市場予想PERの低下圧力と、市場予想EPSの上昇圧力との綱引きになりそうだ。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


史上最高値を更新したS&P500に死角はないのか?

米半導体株に忍び寄る「米中貿易戦争」の影

米国株「トランプ・トレード」が爆騰

なぜ米10年国債利回りは急上昇したのか?

S&P500指数にみる「原子力ルネサンス」

米利下げでS&P500指数はどうなる?