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米AI(人工知能)関連株の動向に変化の兆し?
田中 純平
2024/07/08

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概要

「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる米国の超大型成長株株(マイクロソフト、アップル、エヌビディア、アルファベット、アマゾン・ドットコム、メタ・プラットフォームズ、テスラ)が一段高の展開となっている。しかし、そのけん引役はエヌビディア株だけでなく、これまでパフォーマンスが相対的に劣後していたテスラ株やアップル株も含まれる。当レポートではその背景に迫る。



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M7銘柄は一段高の展開となった

マグニフィセント・セブン(M7:マイクロソフト、アップル、エヌビディア、アルファベット、アマゾン・ドットコム、メタ・プラットフォームズ、テスラ)と呼ばれる米国の超大型成長株の株価パフォーマンスが一段高の展開となっている。S&P500指数と、M7銘柄を除いたS&P500指数の株価指数を比較すると、今年5月以降、S&P500指数のパフォーマンスが優位になっていることが分かる(図表1)。

この結果、M7銘柄の時価総額は7月5日時点で約16.7兆ドル(約2,678兆円)にのぼり、米国株の時価総額全体に占める割合は28.9%とおよそ3割に迫る(図表2)。ちなみに、マイクロソフト、アップル、エヌビディアの3銘柄だけで時価総額は合計約10兆ドル(約1,607兆円)になり、中国全体の時価総額8.4兆ドルを大きく上回る。もはやM7銘柄は米国外のどの単一国よりも存在感が大きい。

M7銘柄の株価パフォーマンスが相対的に優位になっている理由の一つとして、米国の景況感の悪化が挙げられる。6月のISM製造業景況感指数とISM非製造業景況感指数がともに好不況の分かれ目である50を下回ったため、足元の景気循環の影響を相対的に受けにくいと考えられるAI(人工知能)関連銘柄のM7への資金シフトが進んだと考えられる(図表3)。

直近約3カ月はテスラ株とアップル株が追い上げる

これまでM7銘柄の中でもエヌビディア株がダントツの株価パフォーマンスを示してきた。23年12月末から24年3月末までの株価騰落率(配当込み)は+82%で独り勝ちの状態となり、まさに生成AIブームを象徴する銘柄となった(図表4)。しかし、直近約3カ月の値動きを見ると、やや様子が異なる。特に大きく上昇したのがテスラ株だ。競合する中国の電気自動車メーカーの6月納車台数が前月比で増加したことをきっかけにテスラの納車台数に対する期待が高まったほか、その後に発表されたテスラの4-6月期の納車台数が市場予想を上回ったことなどから、株価は急騰する展開となった。24年3月末から7月5日までの株価騰落率(配当込み)はエヌビディア株が39%高に対し、テスラ株は43%高だった。

また、アップル株も同期間で32%高と追い上げている。アップルは今年6月のWWDC(開発者会議)で生成AIサービス「アップル・インテリジェンス」を発表、今年9月に発売が見込まれる新型iPhoneへの買い替え需要が促進されるとの見方が市場で広がり、アップル株は7月5日に最高値を更新した。

「エッジAI」のポテンシャルに対する期待が高まった可能性

テスラとアップルには「エッジAI」という共通点がある。「エッジAI」とはスマホやPC、車載といった「端末機器(エッジデバイス)」にAI機能を搭載し、そのデータ処理を端末機器で完結させる(複雑な処理のみクラウドを活用する)仕組みだ。AI機能がクラウド・サーバー上にある「クラウドAI」とは異なり、「エッジAI」はインターネット・アクセスが困難な状況でも活用できるほか、複雑な処理でなければ端末上で完結するため、処理速度も向上する。アップルが発表した「アップル・インテリジェンス」はiPhoneにAI機能を搭載する「エッジAI」であり、テスラが開発する「完全自動運転」も車載にAI機能を搭載する「エッジAI」だ(図表5)。

直近のテスラ株は電気自動車の納車台数が予想を上回ったことが好感され上昇したが、現時点で「エッジAI」のポテンシャルを改めて評価する動きは少ない。しかし、テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は、エヌビディアの画像処理半導体(GPU)購入に今年30~40億ドルを費やす計画を明らかにしており、完全自動運転技術の開発に向けて着々と準備を進めている。

M7の中では、これまでGPUを手掛けるエヌビディアや「クラウドAI」サービスを提供するアマゾン・ドットコム、アルファベット、マイクロソフトなどが生成AIブームの恩恵を先行して享受してきた。しかし、今後はこれに加えて、「エッジAI」という幅広い顧客層をターゲットにしたAIサービスが普及するシナリオが浮上してきた。ここ数カ月に見られたアップル株やテスラ株の上昇には、このようなポテンシャルが一部反映されている可能性があるかもしれない。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞歴を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして、主に世界株式市場の投資戦略などを担当。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演。2023年より週刊エコノミスト「THE MARKET」に連載。日本経済新聞ではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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