Article Title
S&P500指数が急反発した理由と当面の注目点
田中 純平
2024/08/19

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

S&P500指数は8月1日から5日にかけて終値ベースで6.1%急落したが、その後は16日までの期間でV字回復を遂げる展開となった。当レポートではその主な要因について考察するとともに、今週開催予定のジャクソンホール会議におけるパウエルFRB議長講演の注目点についても言及する。



Article Body Text

S&P500指数が急反発した主因は米景気後退懸念の低下

S&P500指数は8月1日から5日にかけて終値ベースで6.1%急落したが、その後は16日までの期間でV字回復を遂げる展開となった(図表1)。その主因は、米景気後退懸念の低下だ。

1日に発表された7月27日までの1週間の米新規失業保険申請件数(季節調整済み)は24万9千件と市場予想の23万6千件を上回った。さらに、同日発表された7月米ISM製造業景況感指数は46.8と市場予想の48.8を下回ったほか、その構成項目の1つであるISM雇用指数も43.4と市場予想の49.2を大幅に下回った。これにより、米労働市場の悪化に対する警戒感が高まった。

翌日2日に発表された7月米失業率が4.3%と市場予想の4.1%を上回り、「サーム・ルール(失業率の3カ月移動平均が、過去12カ月の最低値から0.5%ポイント以上上昇した場合に景気後退開始を示唆するもの)」が発動された。このため、米労働市場の悪化による米景気後退観測が一気に高まるきっかけとなった。しかし、その後に発表された一連の経済指標は、米景気後退懸念を和らげるものだった。

特に市場参加者が注目したのが米新規失業保険申請件数の減少だ。8日、15日に発表された統計はいずれも前週比で減少し、市場予想も下回った。

そもそも、米新規失業保険申請件数の上振れは7月に上陸したハリケーン「ベリル」の影響で、米労働市場の悪化が誇張されていた可能性がある。実際、ハリケーンの被害が甚大だったテキサス州の新規失業保険申請件数(季節調整前)は7月に急増したが、8月に入ってからは逆に急減していることが分かる(図表2)。

さらに、15日に発表された7月米小売売上高も前月比1.0%増と市場予想の同0.4%増を上回った。これらの経済指標が、市場参加者に安心感を与える材料になったと考えられる。

円キャリー・トレードのアンワインド終了観測も株高に寄与

今回の急落局面で話題になった円キャリー・トレードのアンワインド(巻き戻し)の終了観測も、S&P500指数の上昇要因と考えられる。円キャリー・トレードは低金利の円で資金調達し、米ドルなどの高金利通貨で運用することで利益を追求する取引を指すが、その運用先は高金利通貨だけでなく米国株などにも及ぶ。

円キャリー・トレードの状況を把握する手がかりとして、ヘッジファンドなどのレバレッジド・ファンドにおける円ポジション統計がある(図表3)。この統計からは、円ロング(買い持ち)ポジションから円ショート(売り持ち)ポジションを差し引いたネットの円ショート・ポジションは、7月16日(米6月CPI発表後)と8月6日(日米金融政策決定会合後)において前週比で急減していたことが分かる。このことから、円キャリー・トレードのアンワインドが急激な円高・米ドル安と株安を引き起こした可能性が推測される。

しかし、8月6日時点の円のネット・ポジションは約2万枚のショートと、直近のピーク時である7月9日の11.4万枚のショートからすでに5分の1まで縮小していたことも同時に明らかになった。このため、8月6日時点の統計が発表された8月9日以降は、円キャリー・トレードにおけるアンワインドの終了(株式の売り圧力低下)観測が、株式市場の上昇に寄与した可能性もある。

当面の注目点はジャクソンホール会議でのパウエルFRB議長講演

今週の22日から24日にかけては、主要な中央銀行の総裁や経済学者などが参加する経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」が開催される。パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長は23日に講演を行う予定であり、市場関係者の注目が集まることが予想される。

ここでの焦点は、①パウエルFRB議長の米景気判断、②利下げ開始のタイミング、③利下げ幅と利下げペース、の3点に絞られるだろう。米景気後退懸念が高まるきっかけとなった失業率の上昇について、パウエル議長はどのように認識しているのか?また、年末にかけて約1%の利下げを織り込む市場を、パウエル議長は黙認(又はけん制)するのだろうか(図表4)?いずれにせよ、金融市場のボラティリティが高まる可能性もあるため注意が必要だ。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞歴を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして、主に世界株式市場の投資戦略などを担当。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演。2023年より週刊エコノミスト「THE MARKET」に連載。日本経済新聞ではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


日経平均株価が乱高下 パニック相場の真相

米中小型株の復活か?ラッセル2000vsナスダック100

米AI(人工知能)関連株の動向に変化の兆し?

日経平均株価が4万円台を回復した理由

フランス総選挙 極右優勢で金融市場は警戒ムード

軟調な日本株の裏に好調な中国株