Article Title
S&P500指数にみる「原子力ルネサンス」
田中 純平
2024/10/04

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

S&P500指数構成銘柄の年初来の株価騰落率ランキングにおいて、原子力発電株が上位を占める異変が起こっている。生成AIブームによる電力需要の急増を受けて、いま米国では「原子力ルネサンス」が沸き起こっており、原子力発電大手のビストラ・コープ株はエヌビディア株よりも圧倒的な株価パフォーマンスを示す。



Article Body Text

年初来の株価騰落率ランキングの上位に原子力発電株が並ぶ

S&P500指数構成銘柄の年初来(2023年12月末-2024年9月末)の株価騰落率ランキングにおいて、生成AI(人工知能)向けのGPU(画像処理装置)等を手掛けるエヌビディア株が2位に入った。この結果に特段の驚きはないが、特筆すべきはその前後に原子力発電株が並んだことだ。ビストラ・コープは年初来で+210%、コンステレーション・エナジーは+124%と、突出した株価パフォーマンスを示している(図表1)。

ビストラ・コープはテキサス州に本社を構える発電会社で、原子力発電が同社の発電容量全体に占める割合は16%(6.4GW)であり、発電容量では全米2位だ。一方、コンステレーション・エナジーは2022年2月に米電力会社大手エクセロンからスピンオフされた発電会社で、米メリーランド州に本社がある。原子力発電が同社の発電容量全体に占める割合は67%(22.1GW)で、発電容量では全米最大となっている(図表2)。なぜ原子力発電株がこれほどまで急騰したのか?その理由は生成AIブームに伴う電力需要の増大だ。

ChatGPTの電力消費量はGoogle検索の約10倍

IEA(国際エネルギー機関)の調査によれば、ChatGPTの電力消費量はGoogle検索の約10倍にもなる。このため、ChatGPTのような生成AIが急速に普及することになれば、今後数年で莫大な電力需要が発生することになる。

IEAの予測では、データセンター、AI、暗号資産のグローバル電力需要は、2022年時点の460テラワット時から2026年には最大で1,050テラワット時まで急増するシナリオが示されており、この増加分はドイツの年間電力消費量に相当する(図表3)。

CO2排出量の少ない原子力発電が再び見直される

生成AIブームに対応するため、データセンターへの投資を加速させているのがハイパースケーラーと呼ばれるハイテク企業大手だ。アマゾン・ドットコム、アルファベット、マイクロソフト、メタ・プラットフォームズの4社は、ここ数年で設備投資額を大幅に増額させており、その大半がデータセンターへの投資と見られている(図表4)。

これらのデータセンターが稼働すれば大量の電力が消費されることになるが、その際の発電源として有望視されているのは、CO2排出量の少ないクリーン・エネルギーだ。なぜなら、上記4社は2030年までにクリーン・エネルギーに100%コミットしているからだ。このため、再生可能エネルギーよりも稼働率が高い原子力発電に現在注目が集まっている。

原子力発電はCO2の排出量が少ないうえ、休止中の発電施設も多く存在する。9月20日にはコンステレーション・エナジーがスリーマイル島の原子力発電所を再稼働させ、マイクロソフトのデータセンター向けに20年間電力を供給する契約を発表したばかりだ。国際原子力機関(IAEA)の最大シナリオでは、2050年にかけて北米の原子力発電の設備容量が現在の約2倍に相当する228GWまで増加すると予測されているが、2030年時点では微増に過ぎない(図表5)。

原子力発電の供給力は簡単には増やせないため、既存の原子力発電事業者に電力契約が殺到している。原子力発電株の高騰は、このようなファンダメンタルズの急変と投資家の期待を反映したものだと言える。


田中 純平
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系運用会社に入社後、主に世界株式を対象としたファンドのアクティブ・ファンドマネージャーとして約14年間運用に従事。北米株式部門でリッパー・ファンド・アワードの受賞経験を誇る。ピクテ入社後はストラテジストとして主に世界株式市場の投資戦略等を担う。ピクテのハウス・ビューを策定するピクテ・ストラテジー・ユニット(PSU)の参加メンバー。2019年より日経CNBC「朝エクスプレス」に出演、2023年よりテレビ東京「Newsモーニングサテライト」に出演。さらに、2023年からは週刊エコノミスト「THE MARKET」で連載。日本経済新聞やブルームバーグではコメントが多数引用されるなど、メディアでの情報発信も積極的に行う。日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


史上最高値を更新したS&P500に死角はないのか?

米半導体株に忍び寄る「米中貿易戦争」の影

米国株「トランプ・トレード」が爆騰

なぜ米10年国債利回りは急上昇したのか?

米利下げでS&P500指数はどうなる?

なぜ生成AI(人工知能)関連株は急落したのか?