Article Title
ブラジル、当面は様子見か
梅澤 利文
2019/02/12

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

2018年10月の大統領選挙に向けたボルソナロ氏への市場の期待を反映してレアル高の進行が見られました。発足したボルソナロ新政権への支持率は高く、期待は維持されていると見られますが、レアルは様子見となっています。ブラジル中銀の声明も市場を忍耐強く静観する姿勢で、政策金利は当面据え置かれることが想定されます。



Article Body Text

ブラジル中央銀行:市場予想通り政策金利を6.5%に据え置き、改革の必要性を指摘

ブラジル中央銀行は2019年2月6日(日本時間では7日早朝)政策金利を市場予想通り、過去最低の6.5%に据え置くことを公表しました。

ブラジル経済に残る余剰(スラック)がインフレ率の下方要因となる期待がある一方で、議会によるコスト削減策の承認の必要性を指摘するなど、インフレ率について上下両方向の可能性があるとの見解を示しました。

 

 

どこに注目すべきか:レアル、年金改革、下院議長、受給資格

18年10月の大統領選挙に向けたボルソナロ氏への市場の期待を反映してレアル高の進行が見られました。(図表1参照)。発足したボルソナロ新政権への支持率は高く、期待は維持されていると見られますが、レアルは様子見となっています。ブラジル中銀の声明も市場を忍耐強く静観する姿勢で、政策金利は当面据え置かれることが想定されます。

声明で指摘された様子見の主な背景は次の通りです。

まず外部要因の不透明さです。具体的には米中貿易戦争と、英国の欧州連合(EU)離脱を挙げ、グローバル経済の成長を減速させる懸念もあり展開を見守る必要があります。

ブラジル中銀の内部要因として、体制の移行が挙げられます。ゴールドファイン総裁の下での政策会合は今回が最後となる公算が大きい中、新体制移行に向けた様子見とも見られます。ブラジル上院は、ボルソナロ大統領が指名したロベルト・カンポス・ネト次期総裁候補を承認する見通しです。今思えば、16年にゴールドファイン総裁が就任した時の金融政策も同様の理由で据え置かれました。

最後に、そして据え置きの最も大切な理由として、これから本格化する構造改革、とりわけ年金改革の動向を見守る意向が働いたと見ています。

ボルソナロ新政権の構造改革に向けた滑り出しは好調です。所属する社会自由党(PSL)は少数ながら、上院、下院とも政策に(一部条件付)協力する政党は7割を超えています(図表2参照)。年金改革には憲法改正が必要で上院、下院共に6割の賛成が必要ですが、現在の協力姿勢が維持されるならば法案可決の可能性が期待されます。

また議会運営の点で、今日のヘッドライン19年1月8日号で指摘した下院議長の人事も注目点と指摘しましたが、年金改革を支持するマイア氏が下院で再選されました。

ただ、年金改革に総論では賛成であっても、支給開始年齢など具体策はこれからで、今後の展開に不安もあります。

 ブラジルの年金は緩やかな(優しい)制度設計で、原則、年金の受給資格が女性は55歳、男性は60歳で得られると言われています。テメル前政権は受給資格を男女とも65歳とする案を提示するも、激しい抵抗を受けた経緯があります。

そもそも市場がボルソナロ政権に期待するのは構造改革に対してですが、世論調査を見ると汚職の撲滅への期待(支持)が最も高く、市場と相違がある点も気がかりです。

ブラジル中銀は中長期的なインフレ低下には構造改革によるコスト低下が必要と繰り返しています。ただ、忍耐も必要なだけに、年内据え置きの可能性を見ています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


米CPI、インフレ再加速懸念は杞憂だったようだが

注目の全人代常務委員会の財政政策の論点整理

11月FOMC、パウエル議長の会見で今後を占う

米大統領選・議会選挙とグローバル市場の反応

米雇用統計、悪天候とストライキの影響がみられた

植田総裁、「時間的に余裕がある」は使いません