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- ベージュブックとFOMC参加者の最近の発言を検証
米連邦準備制度理事会(FRB)は4月23日に地区連銀経済報告(ベージュブック)を発表し、12の連銀地区の景況感などが報告された。トランプ政権の関税政策の影響を受け消費や投資などに慎重姿勢が強まっているようだ。一方、関税の価格転嫁によるインフレリスクへの懸念も指摘された。どちらの影響が強く出るのか当面は様子見が想定され、5月のFOMCでは政策金利の据え置きが見込まれる。
地区連銀経済報告(ベージュブック)は前回から大きくは変化がなかった
米連邦準備制度理事会(FRB)は4月23日に地区連銀経済報告(ベージュブック)を発表した。全米12地区のうち、5地区(ボストンやリッチモンドなど)が経済活動の緩やかな拡大と報告した(図表1参照)。また、3地区(クリーブランド、シカゴ、セントルイス)は前回から変わらずだった。一方で、ニューヨークなど4地区からは緩やかな減速が報告された(3月5日)。今回のベージュブックでは「関税」に関するトピックが幅広く見られた。
なお、今回のベージュブックは4月14日までの情報に基づき、アトランタ連銀がまとめたもので、次回(5月6〜7日)の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議論のたたき台となる。
ベージュブックには、関税政策が及ぼす影響が随所に見られた
今回のベージュブックはトランプ政権の関税政策の影響が前回のベージュブックに比べ色濃く反映され、景気減速(図表1参照)の見方が増えた。しかし、4月後半に発表された地区連銀の景況感指数が示唆するほどにはベージュブックのトーンは悲観的でなかった印象もある(図表2参照)。今回のベージュブックは4月14日までの情報に基づいて作成されているため、関税政策の影響に迷う可能性もある。ただし、内容を見ると、景気への不安が強いように思われる。
消費についてのコメントを見ると、減速感への指摘が目につく。サンフランシスコやニューヨークなど景気減速を報告した連銀の個人消費は減速が報告されているが、アトランタやカンザスシティなど全体の景況感が(緩やかながら)回復としている連銀でも、個人消費にやや悲観的だ。関税政策が消費に影響を与えていることがうかがえる。
一方で、ボストン連銀が指摘するように景気を下支えしたセクターとして関税政策からの影響が「もの」に比べて少ないITサービスは堅調だったようだ。また少数ながら住宅投資の回復を指摘する声もあった。冬の寒波で停滞していた住宅投資が活発化したのかもしれない。しかし、ビジネスセンチメントは全般にわたり悲観的な見方が増えている。
雇用については前回のベージュブックに比べ、やや悪化したと指摘されている。しかし、全体的にレイオフを積極化させる動きは限定的のようだ。そのような中、新規雇用には慎重さが目立った。企業の雇用に対するスタンスは、関税政策の不確実性を前に、全般的に様子見姿勢であることがうかがえる。
なお、政府効率化省(DOGE)による連邦職員などの雇用削減による影響も報告されている。話題が豊富なDOGEだが、最近では批判が強まっている。今後の展開に注意は必要だろう。
今回のベージュブックで最も注目したいのが価格動向だ。関税の価格転嫁により値上がりを引き起こすのか、それとも企業は値上げをためらうのかは今後の金融政策を大きく左右するであろう。物価に対するコメントを見ると、関税の影響は鉄鋼やアルミ価格の上昇などがすでに表面化している。
今回のベージュブックによると、製造業は半分程度が関税を価格に上乗せする方針を示唆しているようだ。しかし企業の中には輸入物価の上昇が利益の縮小につながることを懸念する声もあった。機械的に価格転嫁できるような状況でないことが示唆される。米国の消費は昨年までのような「不思議なまでの強さ」は期待しにくい。株式市場が軟調なことによる逆資産効果や、高金利高が借金による消費を抑制するとみられるからだ。関税政策そのものの不確実性は高いが、関税の物価に対する影響の経路も不確実性が高いようだ。
FOMC参加者は追加利下げの時期を巡りばらつきがあるようだ
今回のベージュブックなどが議論の土台となる5月のFOMCでは政策金利の据え置きを市場は見込んでいる。関税政策による不確実性への懸念は、設備投資や消費センチメントを冷やしており、景気への影響は懸念される。しかし、関税のインフレへの影響も不確実で、筆者も据え置きの公算が高いと見ている。
FRBのパウエル議長も講演などで繰り返し様子見姿勢を示唆している。ただし、いつまで据え置きを続けるのかは判然としない。そのような中、足元では早ければ6月のFOMCでの利下げの可能性を示唆するコメントも出始めている。
例えば、クリーブランド連銀のハマック総裁は24日にインタビューで、5月の利下げの可能性は否定したものの、6月までに明確かつ説得力のあるデータが得られれば、6月のFOMCでの利下げの可能性を否定しなかった。
FRBのウォラー理事は同日、7月前(の利下げ)は想定しないが、トランプ政権の関税政策が再び高水準となった場合などに企業はさらなる人員削減に動く可能性がある。その場合には利下げを支持することを示唆した。なお、ウォラー理事は関税によるインフレへの影響は一時的という考えを以前示唆したが、24日のインタビューでもインフレは一時的との考えを改めて示唆した。
もっとも、サンフランシスコ連銀のデーリー総裁やアトランタ連銀のボスティック総裁、クーグラー理事など、インフレリスクが収まるまで金利を据え置くことを重視する利下げ慎重派も少なくない。今後のインフレと景気動向が金融政策の決め手となるだろうし、市場も注視しているところだ。いずれにせよ、政治が介入する問題ではないだろう。
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