Article Title
インドとパキスタン、歴史的視点と市場動向
梅澤 利文
2019/02/28

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

インドとパキスタン(印パ)は共に英国領でしたが、1947年8月に独立しました。しかし未解決のカシミール地方の領土問題や宗教対立が引き金となって、印パは戦争もしくは紛争が起きています。核兵器を保有する両国の対立を市場は警戒しながら見守っています。



Article Body Text

インドとパキスタン:軍事的緊張が高まる一方で、自制を呼びかける動きも

インドとパキスタンの間で、互いに空爆を発表するなど軍事的な緊張が高まっています。2019年2月14日、インド北部カシミール州でインド治安部隊に自爆テロが発生、多数が死亡した件についてイスラム過激派「ジェイシモハメド」が犯行声明を出しています。インドはテロにパキスタンが関与したとして、同国に付与していた最恵国待遇を取りやめ、関税を課すなど関係が悪化しています(図表1参照)。

インド政府は26日、インド軍機がパキスタンと領有権を争うカシミール地方の実効支配線(停戦ライン)を越え、パキスタン国内で空爆を行うなど、事態がエスカレートする様相を示す中、パキスタンのカーン首相は27日インドに対話を呼びかけました。

 

 

どこに注目すべきか:印パ戦争、カシミール問題、核保有、総選挙

インドとパキスタン(印パ)は共に英国領でしたが、1947年8月に独立しました。しかし未解決のカシミール地方の領土問題や宗教対立が引き金となって、印パは戦争もしくは紛争が起きています。核兵器を保有する両国の対立を市場は警戒しながら見守っています(図表2参照)。

印パの紛争の原因を振り返ると、根本はカシミール地方などの領土問題です。カシミールはインド支配地域とパキスタン支配地域に分割され、停戦ラインをまたいで両軍(一部中国)が数十年にわたりにらみ合いを続ける一方、停戦ラインで分断されたことによる独立問題も起きています。

印パの領土問題には宗教上の対立も含むと見られます。

カシミールはヒンズー教徒の藩王(マハラジャ)が1947年まで治めていましたが、住民は大半がイスラム教徒でした。独立に伴い藩王がインドへの帰属を求めたことで、宗教上の相違もカシミール地方の問題を複雑化させています。

ただ、幸か不幸か、1998年に両国が核実験を本格化させ、核保有(報道では両国同程度の核兵器を保有)したことで、衝突は起きていますが、戦争は回避されてきました。印パの外交努力に加え、背後に大国が控え自制を促したためとも言われています。例えば、中国がパキスタンを支える一方で、イスラム過激派への対抗から米国がインドを支援する構図が見られます。しかし、大国の支援は都合により変更されるという不安定な面もある点に注意が必要です。

市場には悲観、楽観的な見方があるように思われます。

対立がエスカレートするという悲観的な見方の背景は、総選挙を控えたインドが弱腰と見られることを嫌いパキスタンに強硬姿勢を維持する恐れがあることです。先に手を出されたという面もあり、インドからの譲歩は期待しにくい面もあります。

一方、楽観(?)的な見方の背景は、パキスタンはインドに対話を呼びかけていること、米国などの大国が自制を求めていることです。インドもイスラム過激派が攻撃対象と述べ暗にパキスタンでないことを示唆しています。楽観シナリオの可能性が高いように思われますが、当面注視は必要です。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


FOMC:市場予想通りの利下げながら全体にタカ派

ECB:声明文はハト派ながら会見はタカ派も匂わす

11月の米CPI、市場予想通りの裏側にある注意点

11月の米雇用統計、労働市場の正常化を示唆

米求人件数とADP雇用報告にみる労働市場の現状

韓国「非常戒厳」宣言と市場の反応