Article Title
中国自動車市場の問題点
梅澤 利文
2019/08/29

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

中国の自動車市場は低迷しています。16年頃を自動車販売のピークとすると、販売を押し上げた自動車税の軽減税率停止に伴い販売は減速しました。その後の米中貿易戦争の悪化や、中国当局の債務削減政策(デレバレッジ)も低迷要因と見られます。これらの要因に加えて、中国当局の大気汚染対策も中国の自動車販売の下押し圧力になったと見られます。



Article Body Text

中国国務院:自動車購入規制緩和などを提示、低迷する市場のてこ入れを狙う

中国国務院が2019年8月27日にウェブサイトで内需底上げに向けた20項目の政策を提案しました。発表された項目の中には自動車に関するものも含まれています。例えば、①自動車購入制限の段階的な緩和ないし撤廃に向けた具体策の模索、②新エネルギー車購入支援、③中古車の流通制限の緩和などが挙げられます。

中国の自動車市場は長期的に低迷しています(図表1参照)。当局のてこ入れにより自動車市場が回復できるのか検討が必要と見ています。

 

 

どこに注目すべきか:米大気汚染対策、国5、NEV規制

中国の自動車市場は低迷しています。16年頃を自動車販売のピークとすると、販売を押し上げた自動車税の軽減税率停止に伴い販売は減速しました。その後の米中貿易戦争の悪化や、中国当局の債務削減政策(デレバレッジ)も低迷要因と見られます。これらの要因に加えて、中国当局の大気汚染対策も中国の自動車販売の下押し圧力になったと見られます。

中国の深刻な大気汚染は政治的な問題となっています。中国の政策方針が示される全国人民代表大会(全人代)でもテーマとして取り上げられてきました。特に全人代で(ある程度の減速を伴う)質の高い成長を求める方針が示され18年には、排ガス規制などを含む「青空を守るための戦いに勝利する3年行動計画」が策定されています。

大気汚染対策などの環境政策というと、日本や欧州が思い起こされますが、中国の自動車排気ガス規制の基準も厳しい内容です。現在は国5と呼ばれる基準が適用されていますが(図表2参照)、今後欧州の規制である「ユーロ6」より厳しい国6基準が適用される運びです。しかも、今年から中国当局は大気汚染の深刻な一部の都市で、国6の前倒し適用を実施しています。なお、大都市では、自動車のナンバープレートの発給制限を行っているケースもありますが、この制限も、大気汚染の抑制を意図したものです。

ここで再び、自動車販売の推移を見ると、6月に回復が見られましたが、この背景は先の国6の前倒し適用が7月から開始されるのに先立ち、国5基準の自動車が大幅なディスカウントで販売されたという事情もあるようです。6月の急回復には特殊な事情がうかがえます。したがって、回復を維持するには追加の政策対応が求められる状況です。今回内需底上げ策の多くが自動車関連であったのも、足元の回復の兆しを維持したい意向と思われます。

中国は大気汚染対策を進めつつ、自動車産業で活路を見出すため、ガソリン車などから電気自動車(EV)へのシフトを進めてきました。新エネルギー車の生産を義務付けたNEV規制などがその例です。しかし、EVの普及は技術的にも、インフラ整備の点で時間がかかっています。その結果、消費者にも自動車購入に迷いがあることが自動車販売の回復の遅れの要因となっている可能性も考えられます。

米中貿易戦争やデレバレッジという逆風の中、排気ガス対策など自動車関連政策にも試行錯誤が想定されます。

 

 


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


メキシコペソの四苦八苦

10月の中国経済指標にみる課題と今後の注目点

米CPI、インフレ再加速懸念は杞憂だったようだが

注目の全人代常務委員会の財政政策の論点整理

11月FOMC、パウエル議長の会見で今後を占う

米大統領選・議会選挙とグローバル市場の反応