Article Title
インド、金融緩和姿勢を維持するも、そろそろ様子見か?
梅澤 利文
2019/10/08

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

インド中銀の今回の利下げの背景として経済成長ペースの鈍化が考えられます。インド中銀のダス総裁は4日の記者会見で経済成長の回復に金融緩和姿勢の必要性を強調しています。一方で、潜在的なインフレ率の上昇に対する警戒も忘れてはいない模様です。今後の政策のスタンスは利下げ一辺倒というより、最適な解を模索する動きが続くものと思われます。



Article Body Text

インド中銀:5会合連続で利下げ、経済成長率の見通しを下方修正

インド準備銀行(中央銀行)は2019年10月4日に金融政策決定会合の結果を公表し、政策金利であるRBIレポレートを5.40%から0.25%引き下げ年5.15%としました。利下げは5会合連続となります(図表1参照)。

なお、インド中銀は、19年度(19年4月~20年3月)のGDP(国内総生産)成長率の見通しを6.1%と、8月時点の6.9%から下方修正しました。一方、物価上昇率は8月が前年同月比3.21%と、中期目標とする「4%前後」の範囲にはとどまっています(図表2参照)。

 

 

どこに注目すべきか:GDPギャップ、成長予想、シャドーバンキング

インド中銀の今回の利下げの背景として経済成長ペースの鈍化が考えられます。インド中銀のダス総裁は4日の記者会見で経済成長の回復に金融緩和姿勢の必要性を強調しています。一方で、潜在的なインフレ率の上昇に対する警戒も忘れてはいない模様です。今後の政策のスタンスは利下げ一辺倒というより、最適な解を模索する動きが続くものと思われます。

インド経済にてこ入れが必要なことは、4-6月期にGDP成長率が前年同期比5.0%に低下したことや、今後の見通しを引き下げたことに示されています(図表2参照)。また、声明の中でインド中銀はGDPギャップ(潜在成長率と実際の成長率の差)が拡大している点も指摘しています。

インド経済の回復が鈍い背景として、インド中銀は主に資本財と耐久消費財の不振により製造業が低調であると述べています。また、インドの自動車市場の成長に急ブレーキがかかっている点も成長見通しを悪化させていると見られます。

金融緩和にもかかわらず、インド自動車市場の成長にかげりが見られる原因は、利下げの効果にラグがある可能性もありますが、より深刻と思われる要因はインドの自動車価格は排ガス規制に向け上昇傾向である一方、インド消費者の所得が追いつかないというミスマッチが考えられます。価格上昇で消費者が手を出しにくい状況が想定されます。

インド経済に下支え策が求められる中、インド中銀は、少なくとも据え置きは維持するなど、金融緩和姿勢を維持すると見ていますが、利下げ回数などを減らし、流動性供給など他の手段を模索する可能性もあると思われます。

その理由として、足元のインフレ率は約3.2%ながら、来週公表予定の9月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比3.7%程度が見込まれるなど、食料品などに、緩やかながら上昇傾向が見られます。また、インド政府による法人税の引き下げなど他の景気てこ入れ策も発動されており、政策効果を見守る必要性もあるように思われます。

インドでは銀行を介さず資金を融通する「影の銀行(シャドーバンキング)」に対する潜在的な不安もあり、危機対応のカードを残すことも考え始めているかもしれません。

インド中銀は金融緩和姿勢を示し続けるも、利下げペースを鈍化させる可能性があると見ています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


FOMC:市場予想通りの利下げながら全体にタカ派

ECB:声明文はハト派ながら会見はタカ派も匂わす

11月の米CPI、市場予想通りの裏側にある注意点

11月の米雇用統計、労働市場の正常化を示唆

米求人件数とADP雇用報告にみる労働市場の現状

韓国「非常戒厳」宣言と市場の反応