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米中通商交渉、合意表明をどこまで喜べるか
梅澤 利文
2019/12/16

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概要

米中通商交渉の「第1段階の合意」が公表されました。今後は来年1月とも想定されている合意文書への署名、時期は未定ながら更なる合意に向けた第2段階へと進展も期待されます。当面は市場の落ち着きも想定されますが、市場の反応を見ると、合意を歓迎する反面、今後の展開に慎重な面も見られます。



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米中通商交渉:米中が貿易合意の第1段階で合意、当面は摩擦激化の懸念後退か

米中両国政府は2019年12月13日、米中貿易交渉で「第1段階の合意」に達したと発表しました。米国が15日に予定していた中国製のスマートフォンなどを対象とした15%の関税1600億ドル分の発動(「第4弾」の残り上乗せ分)を見送るとしています(図表1参照)。

また、「第4弾」で適用済みの追加関税1200億ドル分については税率を7.5%に引き下げるとしています。米国と中国が、米中通商交渉の「第1段階の合意」を発表したことから、当面は貿易摩擦激化の懸念の後退が期待されています。

 

 

どこに注目すべきか:米中合意、USTR、ファクトシート、第2段階

米中通商交渉の「第1段階の合意」が公表されました。今後は来年1月とも想定されている合意文書への署名、時期は未定ながら更なる合意に向けた第2段階へと進展も期待されます。当面は市場の落ち着きも想定されますが、市場の反応を見ると、合意を歓迎する反面、今後の展開に慎重な面も見られます(図表2参照)。

米中通商交渉の動向を反映する傾向が見られたオフショア取引人民元の変動性(インプライドボラティリティ、1年物)の動きを見ると、関税第3弾の税率引き上げや関税第4弾の公表時期に急上昇しました(図表2参照)。

一方、米中両国が関税をかけ合う貿易戦争を始めた18年7月以降、トランプ米政権が対中制裁関税を一部とはいえ緩和合意を公表するのは初めてながら、市場の反応は小幅にとどまりました。背景として、10月頃から米中双方合意を示唆していたため市場は既に織り込んでいたと見られます。

2点目は、今回の合意内容に米中で微妙なずれがあることです。例えば、米通商代表部(USTR)が公表した「ファクトシート」の貿易拡大の項目では、中国が米国からの財・サービスの輸入を向こう2年、17年水準に比べ2000億ドルを増やすと書かれていますが、中国は数字の公表に消極的です。ファクトシートに示された7項目それぞれに、中国との間で食い違いは残っている模様です。もっとも、ここまで高まった市場の認識を反故にするのは、トランプ政権といえど、さすがに考えにくいですが、ノイズ程度は考えられます。

3点目は、今回の合意で見送られた今後に残された課題が重いと受け止められたためと思われます。今回の関税引き下げは第4弾の一部に過ぎず、中国が求めていると見られる第1弾~第3弾の関税引き下げは見送られています。合意内容の詳細は来年1月の署名を目指す、86ページともいわれる合意文章の内容を確認する必要はありますが、大部分の関税引き下げが先延ばしされたのは、知的財産、技術移転、農業、金融サービス、通貨政策、貿易拡大の各項目に、多くの課題が残されているためと見られます。

なお、残された課題を協議する「第2段階の合意」については、開始時期を巡り、すぐに開始したいトランプ大統領と開始に慎重なUSTRとの間にさえ食い違いも見られます。

米中が通商交渉で合意を表明できたことで、当面の安定は期待できそうですが、今後も注視は怠れないと思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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