Article Title
中国PMIに見え隠れする今後の課題
梅澤 利文
2020/07/01

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

中国に限りませんが、PMI指標は50が景気拡大・縮小の目安です。その意味では6月の結果は製造業、非製造業とも「合格」といえそうです。ただ、調査データであるPMIは前月との比較が判断基準となる面もあり、現局面のように変動が大きいときは、内容のチェックも求められます。PMIの推移から中国経済はV字型回復と見られますが、回復を維持するうえで課題も見られます。



Article Body Text

中国6月のPMI:製造業、非製造業共に景気拡大・縮小の目安となる50を超える

中国国家統計局が2020年6月30日に発表した、6月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は50.9と堅調で、市場予想(50.5)、前月(50.6)を上回りました(図表1参照)。

また、6月の非製造業PMIも54.4と、市場予想(53.6)、前月(53.6)を上回りました。なお、PMIは50が景気拡大・縮小の目安です。

 

 

どこに注目すべきか:PMI、新規輸出受注、雇用、香港、再感染

中国に限りませんが、PMI指標は50が景気拡大・縮小の目安です。その意味では6月の結果は製造業、非製造業とも「合格」といえそうです。ただ、調査データであるPMIは前月との比較が判断基準となる面もあり、現局面のように変動が大きいときは、内容のチェックも求められます。 PMIの推移から中国経済はV字型回復と見られますが、回復を維持するうえで課題も見られます。

まず、誤解を招かないよう中国の20年の成長率予想を確認すると、国際通貨基金(IMF)などは1%台のプラス成長を公表しています。ピクテでも中国は20年が1.2%、21年は9.5%と共にプラス成長を見込んでいます。先進国の今年の成長率予想が軒並み大幅なマイナスであることに比べ相対的に中国の成長は堅調です。それでも、今回のPMIからは中国の課題も浮かび上がります。

まず、輸出が回復途上な点です。製造業PMIで新規輸出受注を見ると前月の35.3から42.6に「改善」はしていますが、依然低い水準です。中国当局は内需回復策(自動車の補助金)を中心に景気支援策を拡充してきました。輸出の回復には相手国の回復も必要です。

次に、内訳で雇用指数を見ると、非製造業の雇用は48.7と5月の48.5とほぼ変わらずでした。製造業の雇用指数は5月の49.4から、6月は49.1と悪化しています。これは中国だけの話ではありませんが、コロナ感染抑制のための経済封鎖で経済は縮小しました。元の状態に戻らなければ労働力が余剰と考えられ、社会的に望ましい姿とは思えません。雇用には改善の余地が相当あると思われます。

なお、雇用指数との関係は不明ですが、企業規模別指数では大企業(52.1)と、中堅企業(50.2)は5月を上回る一方で、中小企業は48.9と5月の50.8を下回りました。雇用の受け皿として中小企業への対応が求められそうです。

最後に、PMI以外の課題を2つ挙げると、1つ目は香港問題、2つ目は北京を中心としたコロナ感染再拡大懸念です。香港問題の影響は米国の出方次第と見ています。普通に考えれば米中とも関係を悪化させる経済的余裕は無いはずです。ただトランプ政権の政策は想定し難い面も見られます。

北京などのコロナ感染再拡大は今のところ地域的に限定されているようです。中国の1日当たり地下鉄利用者数をみると、北京周辺では利用が減っていますが、上海周辺での影響は限定的です。もっとも、今回影響が小さいと見られる上海でも、コロナ発生前の昨年の水準は回復しておらず、息の長い経済対策が今後も求められると思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


メキシコペソの四苦八苦

10月の中国経済指標にみる課題と今後の注目点

米CPI、インフレ再加速懸念は杞憂だったようだが

注目の全人代常務委員会の財政政策の論点整理

11月FOMC、パウエル議長の会見で今後を占う

米大統領選・議会選挙とグローバル市場の反応