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- 新興国通貨:チリ、年金制度に見る格差問題
チリの通貨ペソの動向を語る場合、銅価格の要因が高いことが知られています。銅価格の下落(上昇)がペソ安(高)となる傾向が見られます。今回は、銅価格以外の要因として格差問題を取り上げ、具体的事例として年金問題のみを述べます。なお、昨年のチリで起きた抗議活動は地下鉄運賃の値上げはきっかけに過ぎず、背景は不公平感や格差問題と見ています
チリ格付け:フィッチはチリの財政悪化を懸念して格下げ
格付け会社フィッチ・レーティングス(フィッチ)は2020年10月15日にチリの長期債格付け(自国通貨建て、外貨建て共に)をAからA-に格下げしました。
フィッチは格下げの理由として、新型コロナウイルス感染拡大への対応と、19年10月から11月にかけての抗議活動により歳出の拡大が懸念される点などを指摘しています。
どこに注目すべきか:銅価格、格下げ、年金制度、AFP、格差問題
チリの通貨ペソの動向を語る場合、銅価格の要因が高いことが知られています(図表1参照)。銅価格の下落(上昇)がペソ安(高)となる傾向が見られます。今回は、銅価格以外の要因として格差問題を取り上げ、具体的事例として年金問題のみを述べます。なお、昨年のチリで起きた抗議活動は地下鉄運賃の値上げはきっかけに過ぎず、背景は不公平感や格差問題と見ています。
フィッチのチリ格下げの様々な理由の中で、年金に関連して次の2点を指摘しています。1点目は10月25日に予定されている国民投票の結果により、年金制度が変更される見込みであることです。2点目は7月に議会で承認された年金アカウントから(10%まで)の引き出しです。7月から9月の2ヵ月間でGDP(国内総生産)比で5%強が引き出されたと報道されています。コロナで落ち込んだ消費を支援する目的で引き出しを承認したわけですが制度への不安は残ります。
チリの年金制度は現在、1980年代に導入された確定拠出型年金(AFP)を中心に構成されています。以前から存在した確定給付型の年金制度は脇役のイメージです。当時、軍事クーデターで成立したピノチェット政権がシカゴ派経済学の考え方を基本にAFPを導入しました。拠出金を個人が積立て、運用成果に応じた年金を受け取る考え方です。それ以前の確定給付型の運営(約束した年金支払)に問題があるなか、優れた年金制度として、国連なども賞賛する優れた制度でした。
ただ、理由の詳細は割愛しますが、チリの年金制度に格差など深刻な問題が表面化しています。個人ベースの年金制度は、世代を超えた年金の平準化が期待できにくい仕組みです。また社会保障で給付額を守ることにも消極的です。
チリの財政は数字の上で健全であることが知られています。例えば債務残高対GDP比率は30%前後と低水準で(図表2参照)、A格であるチリの高い格付けを支持する要因の一つです。
しかし別の見方をすれば、国民に対するサービスが少ない結果とも言えそうです。先の国民投票は年金だけでなく、教育から福祉まで国の関与が少ないことを是とする憲法の改正を求めるものです。昨年の抗議活動で示された不満への解決策として実施が決定されたことは、当時のペソ反転の理由の一つです。チリの年金制度では所得代替率(所得に対する給付の割合)が低いうえ、職業や性別により大きな格差が見られます。国民投票の後には2年以内に国政選挙も控えているため、コロナの影響に加え、年金などの制度変更がチリの財政負担を重くする可能性もあり、今後の動向に注視が必要です。
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