Article Title
豪中銀はQEを延長
梅澤 利文
2021/02/03

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

豪中銀は2日の理事会、3日のロウ総裁の講演を通じてハト派(金融緩和を選好)寄りの姿勢を示しました。4月半ばに終了する現行のQEについて、早々に延長を決めたことや、利上げについて従来の少なくとも3年間しないとほぼ同じながら、早くて24年と表現を変更してハト派色をにじませました。雇用や低いインフレ率を理由としていますが、豪ドル高へのけん制が注目されます。



Article Body Text

豪中銀:政策金利は市場予想通り据え置くも、QE延長、低金利長期化を再確認

オーストラリア準備銀行(豪中央銀行)は2021年2月2日の理事会で市場予想通り、政策金利を過去最低の0.10%に、また3年国債の利回り目標も0.10%前後に維持することを決定しました。

一方、豪国債など資産購入(量的金融緩和、QE)政策について、現行QEの4月半ばの終了に伴い、1000億豪ドル(約8兆円)相当の国債を追加で買い入れる方針を公表しました。また、政策金利の今後の方針について、インフレ率が持続的に目標の2~3%内に収まるまで利上げはしないとし、時期として24年以降を声明に示しました。

どこに注目すべきか:資産購入政策、資源国、通貨高、失業率

豪中銀は2日の理事会、3日のロウ総裁の講演を通じてハト派(金融緩和を選好)寄りの姿勢を示しました。4月半ばに終了する現行のQEについて、早々に延長を決めたことや、利上げについて従来の少なくとも3年間しないとほぼ同じながら、早くて24年と表現を変更してハト派色をにじませました。雇用や低いインフレ率を理由としていますが、豪ドル高へのけん制が注目されます(図表1参照)。

まず、豪中銀の政策を振り返ります。豪中銀は20年11月にQEを導入し、1000億豪ドルの購入枠と、購入ペースを週50億豪ドルとしていたため、今年の4月半ばに終了する計算でした。今回、現行のQE終了まで余裕がある中で、同じ購入枠、購入ペースでの延長が発表されたことは、延長はあっても減額の可能性も市場の一部では想定されていただけに、ハト派寄りの印象です。

また、利上げの予想時期についても、今回声明文の表現を、インフレ率と雇用市場の十分な改善が見込めるのは早くて24年と、時期を明確にしたことも緩和的です。

なお、マイナス金利など他の金融政策手段の導入についてロウ総裁は講演で否定しています。

豪中銀の姿勢は同じ資源国のカナダ中銀と対称的です。カナダ中銀は1月20日に開催された金融政策会合の声明文に、景気回復を確信すればという条件付ながら、QEを調整(減額)する可能性を盛り込んでいます。

豪中銀が金融緩和姿勢の理由としたのが雇用と低インフレ率です。例えば失業率は21年末で6%、22年末で5.5%を見込んでいます。新型コロナウイルス(コロナ)前の失業率約5%に戻るには当分時間がかかると、豪中銀は見込んでいるようです。

豪中銀は、豪ドル高も念頭にはあったと思われます。コロナによる急落の後の豪ドルの動向を見ると、他の資源国に比べ上昇傾向だからです。主な背景は最大の貿易相手国である中国の回復と、コロナ感染をほぼ完全に抑制(図表2参照)したことなどがあげられます。豪のコロナ感染者数は昨年9月に100人を下回り、足元では一桁となっています。

ただ、豪ドルに関する発言は、講演では限定的(通貨戦争は起きていない)で、声明文の金融環境の中で豪ドルは上昇し、最近のレンジの上限と記されている程度です。ハト派寄りの姿勢は失業率の回復など、実体経済の支援が主体と見られます。豪中銀は、過度な上昇でなく、景気回復に見合った豪ドル高ならば今のところ見守る姿勢のように思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


メキシコペソの四苦八苦

10月の中国経済指標にみる課題と今後の注目点

米CPI、インフレ再加速懸念は杞憂だったようだが

注目の全人代常務委員会の財政政策の論点整理

11月FOMC、パウエル議長の会見で今後を占う

米大統領選・議会選挙とグローバル市場の反応