Article Title
米債務上限適用停止の再開と財政政策運営
梅澤 利文
2021/08/02

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー

概要

米国は債務(法定)上限の適用を2年前から見送っていましたが、8月1日より債務上限が復活しました。米財務省は既に7月30日から緊急措置を発動し、州・地方政府向け特別国債の発行を停止するなど対応を開始しています。財政政策拡大を目論むバイデン政権は、債務上限という制約を意識しながらの政策運営が求められそうです。



Article Body Text

米国債務上限:7月末で適用停止期間が終わり、債務上限が政策運営の頭痛の種に

米連邦政府の債務上限を定める法律の2年間の適用停止が2021年7月末に期限を迎え、8月1日から法定上限が復活しました(図表1参照)。

米国の連邦債務法定上限は、連邦債務残高が上限を超過した場合、新規の米国債発行が出来なくなるルールです。19年7月の財政合意で債務法定上限(当時約22兆ドルに設定されていた)の適用が除外されました。新たな債務法定上限は適用停止期間に積み上がった債務約6.5兆ドルを加えた約28.5兆ドル規模が見込まれます。

どこに注目すべきか:米国債務上限、適用停止期間、デフォルト

米国は債務(法定)上限の適用を2年前から見送っていましたが、8月1日より債務上限が復活しました。米財務省は既に7月30日から緊急措置を発動し、州・地方政府向け特別国債の発行を停止するなど対応を開始しています。財政政策拡大を目論むバイデン政権は、債務上限という制約を意識しながらの政策運営が求められそうです。

米国の連邦債務上限のルールでは、連邦債務残高が上限を超過した場合、新規の国債発行ができず、利払いなどが滞り債務不履行(デフォルト)となるリスクが懸念されます。2011年は債務上限の回避策がギリギリにまでずれ込みました。この状況を懸念して一部格付け会社が米国債を8月4日にAAAからAA+に格下げしたことで市場に混乱が起きました(図表2参照)。

債務上限適用再開といっても、米財務省は手持ちの資金と特例措置(公務員退職基金の運用に対する財務省証券の発行停止など)で当面は財政をやり繰りすると見られます。いつぐらいまで資金がしのげるかについては様々な憶測があり、イエレン財務長官は6月の議会証言で8月に特例措置は使い果たすと懸念を表明していました。議会予算局の推定では、10月から11月頃に使い果たすとの予想を示したことで、イエレン財務長官も10月にシフトさせており猶予期間が延びた印象ですが、秋には山場が訪れそうです。

債務上限について求められる対応として、例えば30兆ドルと言ったように、債務上限額を新たに設定することが考えられます。別の対応として、これまでと同様に、1年や2年など一定期間債務上限を適用しない期間を再度設定する対応も考えられます。ただ、8月はほぼ議会が休会であることから対応への時間は意外と短いともいえそうです。

バイデン政権は債務上限への対応と、暫定予算成立による政府機関閉鎖の回避を視野に入れる必要があります。理想としては上院で10人の共和党議員の協力を得ることが望ましい展開です。そこで注目したいのはバイデン政権が進めている民主党と共和党の超党派による5500億ドル規模のインフラ投資(道路や橋の建築など主にハードインフラ)計画です。先週30日に手続き上の採決が行われ、賛成66、反対28で両党からの支持が得られました。同法案を巡る採決が近く上院で行われる可能性も考えられます。この場合、債務上限への対応や、つなぎ予算で同調することも想定されるからです。しかし、インフラ投資はバイデン政権の財政政策の一部にしか過ぎません。人的投資などソフトインフラを別にしたことで、超党派の合意が進んだ構図ですが、民主党からはソフトインフラと一体での対応を求める声などもあり、今後の展開は不透明です。夏季休暇入りとはいえ、課題は残されたままとなりそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


米CPI、インフレ再加速懸念は杞憂だったようだが

注目の全人代常務委員会の財政政策の論点整理

11月FOMC、パウエル議長の会見で今後を占う

米大統領選・議会選挙とグローバル市場の反応

米雇用統計、悪天候とストライキの影響がみられた

植田総裁、「時間的に余裕がある」は使いません