Article Title
ブラジル中銀、 1%の大幅利上げと今後のポイント
梅澤 利文
2021/08/05

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー

概要

ブラジル中銀は今回の金融政策決定会合で利上げ幅を引き上げたのは、インフレ率上昇への懸念が足元高まったからと見られます。ブラジル中銀は短期的なインフレ率の変動要因として電力価格や食料価格の上昇をあげています。また、別の変動要因として財政政策の動向を指摘しています。来年の大統領選挙を前にした警告とも見られます。



Article Body Text

ブラジル中銀:政策金利の大幅引き上げでインフレ率の上昇を抑制する姿勢を示す

ブラジル中央銀行は2021年8月4日の金融政策決定会合で、大方の市場予想通り政策金利を1%引き上げ5.25%とすることを発表しました。

ブラジル中銀による過去3回の会合の利上げ幅は0.75%でしたが、今回は利上げ幅を拡大しました。インフレ率上昇に対する抑制姿勢を強めた格好です(図表1参照)。

どこに注目すべきか:1%利上げ、IPCA-15、財政政策、大統領選挙

ブラジル中銀は今回の金融政策決定会合で利上げ幅を引き上げたのは、インフレ率上昇への懸念が足元高まったからと見られます。ブラジル中銀は短期的なインフレ率の変動要因として電力価格や食料価格の上昇をあげています。また、別の変動要因として財政政策の動向を指摘しています。来年の大統領選挙を前にした警告とも見られます。

まず今回の利上げの要点を整理します。今回の利上げについて市場では当初0.75%の利上げを見込んでいました。前回の会合の声明文で金融政策の今後の方針について「正常化に向け同程度の調整を行うと予想する」と述べられていたからです。ブラジル中銀は過去の会合でも同様の表現で0.75%の利上げを示唆してきました。

市場予想が0.75%から変わったのは、ブラジル地理統計資料院(IBGE)が7月23日に発表した7月の拡大消費者物価指数(IPCA-15)が前年比8.59%と、市場予想や前月を上回り、インフレ懸念が根強いことが示されたことがきっかけと思われます。ブラジル中銀の今年のインフレ目標は3.75%で、7月実際のインフレ率はこれを大きく上回ったからです。ブラジル国債の利回りもこの指標が発表された後から上昇しています。例えば2年国債利回りは約7.7%から足元では約8.5%にまで上昇しています。

ブラジルのインフレ率が上昇した背景はサービス価格や過去のレアル安の影響により、輸入に依存する電化製品や、燃料価格上昇による交通関連項目の上昇が挙げられます。また今回の声明文では電力価格と食料品価格上昇の影響も指摘しています。もっともこれらの要因は短期的で、ブラジル中銀のインフレ予想を見ても、引き上げられたのは21年で、22年は据置いています。ただ、ブラジル中銀は物価のリスク要因として財政政策拡大を匂わせています。

次にブラジル中銀の財政を振り返ります。ブラジルの財政状況を債務残高対GDP(国内総生産)比率で見ると6月が84.0%と低下(改善)傾向です(図表2参照) 。昨年の放漫財政から、財政規律を維持する路線に転換したことで、依然新興国の中では高水準ながら、改善が見られます。ただし、ブラジルの財政運営はブラジル中銀預金の引き出しで国債発行を抑えるなど運営が複雑で多方面から見る必要があります。例えば純債務対GDP比率は足元、むしろやや上昇しています。背景は税収など財政の基礎的な収益をベースとしたプライマリーバランスなどが悪化しているためと思われます。新型コロナへの対応などによる歳出圧力は依然大きいと見たほうが良さそうです。

また、ブラジル財政の今後は、来年にも予定される大統領選挙も懸念材料です。再選を目指すと見られるボルソナロ大統領は先月、進歩党の党首を要職につけ関係改善を図りました。ボルソナロ大統領は現在無所属です。ブラジル憲法により選挙に立候補するにはどこかの政党に所属する必要があります。今回の人事はその布石と思われます。南米では大統領選挙前に財政が悪化する傾向があり、ブラジル中銀も懸念していることと思われます。ブラジルのインフレ動向を占う上で、政治動向に対する注視が今後もさらに求められそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


FOMC:市場予想通りの利下げながら全体にタカ派

ECB:声明文はハト派ながら会見はタカ派も匂わす

11月の米CPI、市場予想通りの裏側にある注意点

11月の米雇用統計、労働市場の正常化を示唆

米求人件数とADP雇用報告にみる労働市場の現状

韓国「非常戒厳」宣言と市場の反応