Article Title
資源高に逆行するレアル
梅澤 利文
2021/10/20

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー

概要

ブラジルレアルが今年の夏頃から軟調となっています。きっかけは、今日のヘッドライン21年8月25日号でも取り上げたように、ボルソナロ政権閣僚のワクチンの不正調達です。しかし、それはあくまできっかけに過ぎないと思われます。むしろ、そこで見られたボルソナロ政権の支持率の低さと、これを挽回しようとする政策がレアル不安定さの背景と見ています。



Article Body Text

ブラジルレアル:資源価格上昇が追い風とならず、軟調に推移

ブラジルレアルが軟調です。主要通貨の対ドル騰落率を2021年10月19日について前日比で見ると、ニュージーランドや、豪ドルといった資源国通貨が1%以上上昇したのに対し、レアルはマイナス1.3%となっています(図表1参照)。

なお、ブラジルでは22年10月2日に大統領選挙が予定されています。現職で右派のボルソナロ大統領は再選を目指す構えです。しかし、支持率では有力な対抗馬と見られる左派のルラ元大統領に大きく離されており、ボルソナロ大統領の苦戦が現時点では想定されます。

どこに注目すべきか:レアル安、中国、歳出上限、大統領選挙

ブラジルレアルが今年の夏頃から軟調となっています。きっかけは、今日のヘッドライン21年8月25日号でも取り上げたように、ボルソナロ政権閣僚のワクチンの不正調達です。しかし、それはあくまできっかけに過ぎないと思われます。むしろ、そこで見られたボルソナロ政権の支持率の低さと、これを挽回しようとする政策がレアル不安定さの背景と見ています。

レアル安の原因には様々な要因が挙げられます。新型コロナウイルスの感染拡大と医療崩壊はブラジル経済に深刻な影響を与えました。ただ、足元の新規感染者数は1日当り1万人を下回る日もあり、1日当たり10万人を上回っていた時期に比べ落ち着きは見られます。

中国経済の減速もレアル安要因です。中国の景気減速により中国からの需要減速が懸念されます。ブラジルの中国への主力輸出品である鉄鉱石価格は、原油などと異なり、下落傾向です。

このような中、最近のレアル安要因には財政拡大または財政規律喪失への懸念があげられます。具体的には現在ブラジル議会で進行している22年予算が注目されます。

ブラジルの財政規律は、歳出に上限(予算での歳出額の増加率)を過去の消費者物価上昇率よりも低い比率とすることが17年から定められています。一方でブラジルのインフレ率は上昇傾向で歳出のやり繰りを難しくしていると見られます。例えばブラジルでは公務員の多さから公務員の給与が歳出負担となっていますが、最低賃金はインフレ率(INPC)を参照して決定されるため歳出の増加が見込まれます。このような事情があるうえに、ボルソナロ大統領は低所得者向け補助金支払いのボルサファミリア(平均支給額は月額190レアル程度)を拡充することを画策しています。報道では支給を300レアルもしくは400レアル(約8200円)に引き上げ、自身の支持率回復を目指しています。このための追加財源の市場の推定は様々ですが恐らく200から300億レアルとの声が多いようです。その場合、ブラジルの歳出上限は守られない可能性もあり市場は議論の動向を見守っています。

ボルソナロ大統領は本来は右派として前回、18年の選挙を戦ってきました。選挙戦では財政改革を訴え、ボルサファミリアには反対の姿勢であったように記憶しています。新型コロナ対策という面は多少割り引くとしても、この方針変更は来年の大統領選挙を意識してのことと見られます。世論調査では、最有力の対抗馬と見られるルラ元大統領が5割近い支持率を集めています。一方、ボルソナロ大統領の支持率は2割程度で大きく水をあけられています。

ブラジル中央銀行は利上げによりレアル安抑制とインフレ率低下を目指しています。しかし、中国要因と目下、最大の懸案である政治要因を背景に効果は限定的です。レアルの今後を占う上で、これらの動向に注視が必要です。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


FOMC:市場予想通りの利下げながら全体にタカ派

ECB:声明文はハト派ながら会見はタカ派も匂わす

11月の米CPI、市場予想通りの裏側にある注意点

11月の米雇用統計、労働市場の正常化を示唆

米求人件数とADP雇用報告にみる労働市場の現状

韓国「非常戒厳」宣言と市場の反応