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- 北京オリンピックとデジタル人民元
中国は2月の北京オリンピックに照準を合わせ、デジタル人民元(通称:e-CNY)の利用を展開する計画です。デジタル人民元のウォレットアプリは上海など中国の10地域と北京オリンピック会場で利用できると伝えられています。主要国の中で、中国は本格的な中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行する最初の国となる公算が高まっています。
中国デジタル通貨:北京オリンピックに向け着々と準備を進める
中国人民銀行(中央銀行)は2022年1月4日、デジタル通貨「デジタル人民元」のスマートフォン向けウォレットアプリの配信を始めました。北京冬季五輪の開幕を1ヵ月後に控え、選手や大会関係者らを通じて、利便性の高さをアピールする狙いがあると見られます。
人民銀のデジタル通貨研究所により開発されたこのアプリは研究開発の試験段階で、主要な国内銀行を含む、デジタル人民元サービスを提供するサポート機関を通じて、一部のユーザーのみが入手できると報道されています。
どこに注目すべきか:デジタル人民元、北京オリンピック、決済
中国は2月の北京オリンピックに照準を合わせ、デジタル人民元(通称:e-CNY)の利用を展開する計画です。デジタル人民元のウォレットアプリは上海など中国の10地域と北京オリンピック会場で利用できると伝えられています。主要国の中で、中国は本格的な中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行する最初の国となる公算が高まっています。
CBDCはバハマやナイジェリアなどで発行されています。ただ、中国のCBDCは国際通貨である人民元のCBDCであり、主要国で発行される本格的なCBDCと見られます。
デジタル人民元について、昨年7月に人民銀が公表した「白書」(図表1参照)と実証実験などから想定されるデジタル通貨としてのイメージを振り返ります。
まず、デジタル人民元の5つの定義を参照すると、①デジタル人民元は、現金の人民元同様に中央銀行である人民銀が発行する法定通貨であること、②集中管理と二層運営方式をとるとしています。
集中管理はデジタル人民元の発行から償却まで人民銀が管理するということで現金と同じです。また耳慣れない二層運営ですが、これも現金同様のイメージです。例えば、紙幣には発行元である日本銀行券と印刷されていますが日銀から紙幣を受け取ることは無く、民間銀行のATMから入手しています。これが二層運営のイメージで、デジタル人民元の場合、スマートフォンの電子ウォレットを通じて通貨を受け取ると見られます。なお、電子決済サービスのアリペイやウィーチャットペイも同様の仕組みですが、デジタル人民元の場合、過去の実証実験から銀行口座を開設しなくてもデジタル人民元を使用できる模様です。銀行口座が無い(中国では比較的多い)人に金融サービスを展開する意図がありそうです。余談ながら、北京オリンピックの外国人関係者や選手も中国の銀行口座の有無を気にせず(限度額はありますが)デジタル人民元を利用することが想定されます。
なお、インターネットが無い環境でも決済が出来るオフライン決済の実証実験が蘇州で行われ利便性はありそうです。
③現金の代替であること。デジタル人民元が導入されても現金は需要がある限り続け共存させるとしています。デジタル化で紙幣が即座に無くなることは明確に否定しています。
④国内の個人利用を主体とするとしています。これは現金の利用が個人主体であることからイメージはしやすいと思います。しかしながら、中国は国境を越えた決済(クロスボーダー取引)をデジタル人民元で可能となるようテストを進捗させています(図表1参照)。また、中国は国際決済銀行(BIS)が主導する法定デジタル通貨間のブリッジ構想(mCBDC Bridge)にも参加しクロスボーダー取引を発展させています。長期的なデジタル人民元の先には、米ドル基軸通貨体制へ戦略的な挑戦をする考えがあるのかもしれません。
⑤デジタル人民元の運営にはマネーロンダリング(資金洗浄)防止などへの対応が可能と認可された民間銀行や決済サービスが関与するとしています。中国一体となってデジタル人民元を推し進める姿勢とも見られます。これはあくまで筆者の見解ですが、今思えば、昨年あたりから中国当局が決済サービス会社へ統制を強化した背景の一部にデジタル人民元との共存があったのかもしれません(あくまで想像ですが)。中国のデジタル人民元については、背後にある中国の経済戦略に注目する必要があると思われます。
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