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- 1998年、ロシア危機を振り返る
慎重な状況分析をすると思われる日銀の黒田総裁が可能性を完全に否定しないほど、ロシアの債務不履行(デフォルト)が市場でも意識され始めています。黒田総裁が言及したように、ロシアは1998年に対外債務の90日間支払い停止を発表するなどデフォルトを引き起こしました。当時と状況が異なるため単純な比較は出来ませんが、懸念すべき違いも見られます。
黒田総裁:98年のロシア国債デフォルト、そういうことが絶対ないとは言い切れない
日本銀行の黒田総裁は2022年3月8日、参院財政金融委員会の答弁でロシア国債が98年同様、債務不履行(デフォルト)する可能性に言及しました。
黒田総裁は主要国の対ロ制裁にかなりの効果が出ていると分析し、具体的にはルーブルやロシア国債の価格下落を指摘しました。その上で、「98年にロシア国債はデフォルトしているが、そういうことが絶対ないというふうにも言い切れない」と述べています。
どこに注目すべきか:ロシア財政危機、デフォルト、1998年、LTCM
ロシアの98年の国債デフォルトに関連する一連のイベントはロシア財政危機などと呼ばれています。具体的にはロシアが98年8月17日に対外債務の90日間支払い停止とルーブル建て短期国債の債務不履行を発表しました。また、これに伴い通貨ルーブルの事実上の切り下げが行われました(図表1参照)。
当時のロシアはルーブルをドルに固定(ペッグ)させるドルペッグ制を採用していましたが、変動範囲を拡大させることで通貨を切り下げました。なお、ロシアは05年にドルとユーロの通貨バスケットに連動させる制度の採用を経て、 14年11月に変動相場制を導入しました。
98年にロシアがデフォルトに追い込まれた背景はいくつかの要因があります。例えば、米国の金融政策への追随です。ドルペッグを維持するためロシアも金利を引き上げる必要がありました。一方で当時も今も資源大国であるロシアですが、原油価格は90年代後半は1バレル=10ドル台にまで低下した局面もありました。そのためロシア財政に対する不安が高まり資本逃避が起きました。当初、ルーブル安防衛に向け政策金利を98年夏前には150%にまで引き上げ対応しました。しかし効果は長続きせず、デフォルトと通貨切り下げに追い込まれました。この構図は、97年に発生したアジア通貨危機の伝染とも見られます。
ロシア国民の生活に目を移すと、消費者物価指数は前年同月比で120%を超えた時期もあり(図表2参照)、高インフレなどに苦しんだと見られます。このような状況でよく見られることですが、(ロシア)国民はドル保有を求めることから、ルーブル安に歯止めがかからない状況が続きました。
なお、投資ファンドLTCMはロシア危機の早期収束を見込んで、借入(レバレッジ)でポジションを構築したことが裏目となり破綻しました。LTCMの危機が明確となっていた98年7月に米国はロシアに対し緊急支援を承認しています。ロシアへの経済制裁を先導する現在とは真逆の対応です。もっとも、LTCM問題が金融システムリスクを拡大させることを抑制するため米国がロシアを支援した面もありそうです。国際通貨基金(IMF)もロシアを支援しましたが、資本逃避はなかなか収まらず、ルーブル安が続きました。結局状況が落ち着いたのは、原油価格が上昇に転じた03年頃まで持ち越されました。
現在のロシアは黒田総裁が指摘するように、デフォルトが無いとは言い切れない状況です。もっとも98年当時のロシアと軍事侵攻前のロシアに経済ファンダメンタルズの違いが見られます。また、LTCMのような無謀な運用は、無いとは断言できませんが、金融規制の強化などに抑制の効果が期待されます。ただ、98年当時は国際社会が理由はどうあれロシアを支援しましたが、この点は現在と正反対と思われます。軍事侵攻の代償はロシアに高くつくと思われます。
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