Article Title
欧州の天然ガスのロシア依存に対する10の提言
梅澤 利文
2022/03/28

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

ロシアのウクライナに対する軍事侵攻を受け、欧州が天然ガスなどのエネルギーをロシアからの輸入に依存していることがクローズアップされています。欧州の国々からはロシア依存からの脱却を目指す方針が示され始めています。欧州のロシア依存からの脱却について、国際エネルギー機関(IEA)の提言をベースにポイントを振り返ります。



Article Body Text

EUの天然ガスのロシア依存:米国がLNG供給を表明、依存脱却の方向に動く兆し

米国と欧州連合(EU)は2022年3月25日、22年末までに少なくとも150億立方メートル(㎥)の液化天然ガス(LNG)を追加供給することで合意したと発表しました。欧州のロシアに対するエネルギー依存を低減することが目的です。

なお、EUは昨年ロシアから天然ガスを1550億㎥程度輸入しています(図表1参照)。

どこに注目すべきか:EU、ロシア、天然ガス、削減、IEA、LNG

国際エネルギー機関(IEA)は3月月初に、欧州がロシアの天然ガス依存から脱却するための10の提言を行ったレポートを公表しました(図表2参照)。同レポートによると、EUが21年にロシアから輸入した天然ガスは1550億㎥で、内訳はパイプライン経由が1400億㎥、LNGが150億㎥となっています。同レポートによる提言通りとすれば22年末にはロシアからの輸入は1000億㎥を下回り、21年対比で3分の1程度を削減できると指摘しています。同レポートの提言内容を振り返りながらロシア産天然ガス輸入削減の展開を占います。まず、図表2にある新規供給契約中止は主にロシアの国営ガス供給会社の欧州向けガス供給契約のうち、22年に終了する契約を更新しないという内容です。結果として150億㎥程度の削減を見込んでいます。

新規供給契約中止を補足する意味でも、欧州に対して天然ガスを供給する先を増やす必要があります。IEAはパイプライン経由とLNG輸入の増加を見込んでいます。パイプライン経由では既にパイプラインが設けられているノルウェーやアゼルバイジャンからの輸入増加を見込んでいます。ただ、パイプラインは設置に時間が必要で22年末の増加見込みは相対的に小さくなっています。

一方、LNGについてIEAは多少柔軟性があると指摘しています。しかしながら欧州がLNGの確保に動き他国と奪い合いとなればLNG価格が急上昇する恐れもあります。また、液体のLNGをガスに戻すLNG気化器施設等の稼働能力などを考えなければ、LNG確保は机上の空論となってしまうため、このような制約を踏まえIEAはロシアからのパイプラインとLNGの輸入が合計300億㎥程度削減できると見ています。

効率性の改善にはガスのボイラーを効率が良いヒートポンプへ取り替えることや、熱効率の良い建築物にすること、さらには暖房の設定温度を1度下げるという提言をしています。

再生エネルギーには主に風力と太陽光発電の活用を指摘しています。ただ、天気任せとなるリスクはこの冬も欧州で見られました。その点、原子力発電やバイオエネルギーがその他エネルギーとして期待されています。ただ、欧州でも原子力発電は賛否両論です。目先は原子力発電の活動停止が新規を上回る状況とIEAも指摘しています。欧州における原子力発電について今後の議論の展開に注意が必要です。

最後に在庫増加です。これまでの項目は全てロシアからの天然ガス輸入を減らす内容でしたが、在庫増加は反対に天然ガス輸入を増加させることで在庫増加を意味します。この冬、欧州の天然ガスの備蓄不足が(ロシアの)天然ガス需要を高めた反省から10月までに在庫を高めるとしています。

同レポートの提言には実現性が不確実なものもありますが、今後の展開を占う目安となりそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


FOMC:市場予想通りの利下げながら全体にタカ派

ECB:声明文はハト派ながら会見はタカ派も匂わす

11月の米CPI、市場予想通りの裏側にある注意点

11月の米雇用統計、労働市場の正常化を示唆

米求人件数とADP雇用報告にみる労働市場の現状

韓国「非常戒厳」宣言と市場の反応