Article Title
インドの双子の赤字への対応
梅澤 利文
2022/07/05

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

インドは物価高を受けて5月から金融引き締めに転じました。このことは経済優先からインフレ対応重視に転じると共に、インドが直面する双子の赤字(財政と貿易)問題を浮き彫りとすることとなっています。金利負担の増加から財政による景気下支え策には選別や反対に増税が求められそうです。これからの政策のバランスがインド経済の先行きを大きく左右すると見ています。



Article Body Text

インドPMI:6月の総合PMIはほぼ前月並みで、比較的高水準を維持

米S&Pグローバルが2022年7月5日に発表した6月のインドの購買担当者景気指数(PMI)はサービスPMIが59.2と、前月の58.9を上回りました(図表1参照)。

なお、7月1日に発表された6月の製造業PMIは53.9と、前月の54.6を下回りましたが、景気拡大・縮小の目安である50は上回りました。製造業とサービス業を合わせた6月の総合PMIは58.2と前月の58.3とほぼ同水準となりました。

どこに注目すべきか:インド中銀、貿易赤字、金輸入関税、補助金

インド準備銀行(中央銀行)は6月8日の金融政策決定会合で、政策金利(レポ金利)を0.5%引き上げて4.9%としました。5月に続き、2会合連続の利上げでした。利上げの背景として、インド中銀はエネルギー価格の高騰などを受けたインフレの抑制を挙げています。

5月のインドの消費者物価指数は前年同月比で7%を上回り、金融引き締めを加速せざるを得なくなっています。もっともPMIで示されるように、ある程度、景気は回復傾向であることも利上げを後押しした要因と見られます。

次に、別の観点からインドの利上げを振り返ると、貿易と財政の双子の赤字に対する対応が浮かび上がります。

まずインドの貿易動向を見ると、輸入は前年比62.8%と拡大する一方で、輸出は同20.6%と輸入に比べ伸び悩んでいます(図表2参照)。結果として貿易赤字は5月が243億ドルと赤字幅を拡大させています。輸入が拡大の抑制に国内需要を利上げで抑えるインド中銀の意向も想定されます。

なお、インド中銀だけでなく、インド政府も双子の赤字対策を打ち出しています。インド政府は1日に金の輸入関税を従来の7.5%から12.5%へ引き上げ、金の宝飾需要を抑制することや、石油製品の輸出関税、並びに国内原油生産に税制を導入しました。もっと市場の反応を見ると、金の輸入関税の輸入抑制効果を限定的と見込む声が多いように思われます。これらの対策の効果が多少期待されるとすれば、次に述べる財政赤字の縮小です。

インドの財政赤字対GDP(国内総生産)比率はコロナ禍による急速な拡大(悪化)から回復しましたが、足元再び赤字拡大方向です(図表3参照)。インド政府は景気もしくはインフレ対策として、食品や肥料などへの補助金強化、低所得者向け燃料補助などを行ってきました。また、物価安定のため小麦を輸出禁止するなど税収の減少で財政負担となる政策が過去は選択されました。しかし、今回導入された石油製品の輸出関税は、貿易収支にはマイナス材料かもしれませんが、財政の改善は期待されると見られそうです。

コロナ禍を受けインド経済は、当初、経済優先でコロナからの回復を優先させましたが、5月の利上げ開始はインフレ対策に重点をシフトさせたことを示唆します。インフレと景気回復に加え、インドの双子の赤字へもバランス良く対応することが今後のインド経済の動向を左右すると見ています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


メキシコペソの四苦八苦

10月の中国経済指標にみる課題と今後の注目点

米CPI、インフレ再加速懸念は杞憂だったようだが

注目の全人代常務委員会の財政政策の論点整理

11月FOMC、パウエル議長の会見で今後を占う

米大統領選・議会選挙とグローバル市場の反応