Article Title
スリランカ以外にアジアで注意の必要はないのか?
梅澤 利文
2022/07/20

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

パキスタンの(格付け)見通しが引き下げられました。見通しの引き下げは、あくまで中長期的に格下げを検討するという位置づけです。ただ、見通し引き下げの背景を振り返ることで、パキスタンに限らず、新興国投資にあたり、クレジット上、注意すべき点も浮き彫りとなることから、今回のケースを参考に、今後の注目点を考えます。



Article Body Text

パキスタン見通し引き下げ:債務負担懸念を受け格付け見通し引き下げ、通貨安進行

格付け会社フィッチ・レーティングスは2022年7月18日にパキスタンの格付け見通しを弱含み(ネガティブ)としました。下落傾向が続いているパキスタン・ルピーは足元でさらにルピー安が進行しています(図表1参照)。なお、フィッチはパキスタンの長期債格付け(自国通貨建て、外貨建て共に)をB-で据え置いています。

フィッチは見通しを引き下げた理由としてパキスタンの外貨建て(主にドル建)債務返済負担と、資金調達能力の悪化を指摘しています(図表2参照)。

どこに注目すべきか:パキスタン、対外債務、IMF、政治対立

パキスタンの近隣国であるスリランカは5月、1948年の独立後初めて債務不履行(デフォルト)となったことは記憶に新しいところです。スリランカでは新型コロナウイルス感染拡大前から放漫な財政運営を行っていたうえ、コロナ禍対応の債務負担、足元では外貨建て債務のベースとなる米国金利上昇と、インフレ率上昇が危機を深刻化させました。

スリランカほど深刻ではないにせよ、パキスタンが直面する問題もかなり深刻です。新興国で財政リスクが高い国を選出すると、エルサルバドルやチュニジア、コスタリカなどと並んでパキスタンが顔を出すことが多くなっています。

パキスタンに直接投資をする機会は無いとは思われますが、新興国投資をするうえで注意すべき点も含まれると思われるため、ポイントを振り返ります。

まずパキスタンが直面しているリスクは対外債務の規模です。22年は31億ドル超、23年も15億ドル超の支払いが求められると見られます。パキスタンの信用力が悪化していることから新規の外貨調達能力は著しく悪化しています。

これに対し、パキスタンの外貨準備高は急速に減少し、今年5月の時点で金などを含めて150億ドル程度で、金などを除けば100億ドル程度と見られます(図表3参照)。パキスタンは経常赤字が続き、対外ポジションは悪化傾向です。

パキスタンを支援する動きは見られます。パキスタンと国際通貨基金(IMF)は支援策に協議を続け、5月には12億ドルの追加融資の合意(最終承認は8月頃)や、来年6月までの拡大信用供与措置の延長が検討されています。もっとも、支援の条件としてIMFはパキスタンに財政支援で低価格となっている燃料価格の適正化を求め、パキスタンは条件を受け入れました。パキスタンのインフレ率は(恐らくこれを背景に)急上昇しています(図表3参照)。IMFの支援は必要ながら、債務が帳消しになるわけではなく、融資の条件も決して甘くはないようです。

パキスタンの懸念材料は不安定な政治です。例えば議会の不信任で4月に失職したカーン前首相は総選挙を求めて、支持者と大規模な抗議活動を続けています。連立与党は辛うじて過半数を確保しているに過ぎず、政治の安定には程遠いことも懸念要因です。パキスタンは対外債務の多さとぜい弱な資金調達能力、経常赤字と外貨準備高不足、政治的混乱などが注意点としてあげられそうです。



梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


メキシコペソの四苦八苦

10月の中国経済指標にみる課題と今後の注目点

米CPI、インフレ再加速懸念は杞憂だったようだが

注目の全人代常務委員会の財政政策の論点整理

11月FOMC、パウエル議長の会見で今後を占う

米大統領選・議会選挙とグローバル市場の反応