Article Title
中国ゼロコロナ政策緩和、朗報ながら先は長い可能性も
梅澤 利文
2022/12/06

Share

Line

LinkedIn

URLをコピー


概要

中国の景気減速の主な背景として不動産問題とゼロコロナ政策が挙げられます。このうちゼロコロナ政策については抗議活動などを受け一部の地域でPCR検査の陰性証明の提示が不要となるなどの緩和策が導入されています。ゼロコロナ政策の緩和は経済に明るいニュースと見られますが、ゼロコロナ政策の全面的な停止となると、課題も残されていると思われます。




Article Body Text

中国ゼロコロナ政策:厳格な行動制限に対し抗議の声が高まる中、一部に緩和策

厳しい行動制限を伴う「ゼロコロナ」政策に対して抗議活動が起きた中国で、一部ながらPCR検査の陰性証明の提示が不要になるなど各地で感染対策緩和の動きが広がっています。中国一部で先月末からゼロコロナ政策の緩和策が実施され始めています。

広州市や深セン市などの濃厚接触者の自宅隔離を許可するなどといった緩和策から、北京などでは大半の公共施設の入場時に義務付けていた新型コロナウイルス検査結果の提示を6日から不要にすると発表しています。

どこに注目すべきか:ゼロコロナ政策、若年層失業率、ワクチン接種

中国の景気減速の一つの要因とみられるゼロコロナ政策に見直しの兆しが見られます。中国当局からゼロコロナ政策緩和を示唆するコメントなどが報道されています(図表1参照)。国家衛生健康委員会からは、足元中国に蔓延しているコロナの病原性は比較的弱いことや、今後の政策の重心が新型コロナウイルスのワクチン接種にシフトする可能性が示唆されています。また、広東省の共産党常任委員会の声明から、ゼロコロナ政策の緩和は地域特性を踏まえ対応にばらつきが見られますが、あくまで中央政府と足並みを揃えた(許可を受けた?)対策であることがうかがえます。

ゼロコロナ政策が緩和される方向であることを最も市場に印象付けたのは、習近平国家主席のコメントであると思われます。習近平氏はゼロコロナ政策への反発は主に若年層であること、中国で流行しているオミクロン株の致死率が低いことなどを指摘したと報道されています。報道ベースであれ習近平氏がこれらの点を認めたということであれば、ゼロコロナ政策緩和への期待を支える要因と思われます。

若年層の不満は失業率の高さなどに見て取れます(図表2参照)。若年層失業率は7月のピークには19.9%となり、足元でも17.9%と高水準です。ゼロコロナ政策が厳格に適応された上海市では3月末頃から5月末まで社会活動が制限されました。他の主要都市でも同時期にゼロコロナ政策が実施されており、特に若年層はゼロコロナ政策が失業率上昇要因と考えていると想定されます。また、個人消費などと関連が強い非製造業購買担当者景気指数(PMI)の11月分は46.7と前月の48.7から大幅に低下しています。ゼロコロナ政策緩和への期待を支えた要因と見られます。

別の対策として、中国当局はワクチン接種を拡大させる方針です。特に高齢者のワクチン接種率が低いという問題の解消を目指す方向です。

若年層の不満に応えたゼロコロナ政策の一部緩和やワクチン接種拡大方針はポジティブな方向とみています。しかしながら、ゼロコロナ政策が本格的に停止するには壁が残されていると思われます。ゼロコロナを停止した場合の死者数の推計を見ても相当数の被害を覚悟する必要がありそうです。中国の医療施設は大都市と郊外で格差が大きいことが挙げられます。また、中国でこれまで使用されてきたワクチンは効果が低いとされる不活化ワクチンで、欧米で有効性が確認されたワクチンの導入に中国当局は消極的なようです。

ゼロコロナ政策の緩和が一部実施されたことは朗報ですが、根本的な方針転換には時間がかかるのかもしれません。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


●当資料はピクテ・ジャパン株式会社が作成した資料であり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。
●当資料に記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当資料は信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当資料中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の保護の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資者保護基金の対象とはなりません。
●当資料に掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

手数料およびリスクについてはこちら



関連記事


メキシコペソの四苦八苦

10月の中国経済指標にみる課題と今後の注目点

米CPI、インフレ再加速懸念は杞憂だったようだが

注目の全人代常務委員会の財政政策の論点整理

11月FOMC、パウエル議長の会見で今後を占う

米大統領選・議会選挙とグローバル市場の反応