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ブレグジットで取り残された問題に解決の兆しか
梅澤 利文
2023/02/28

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概要

英国のスナク首相とフォンデアライエン欧州委員長はロンドン郊外のウィンザーで会談し、英領北アイルランドの通商ルールを巡る問題の解決策で合意したことを発表しました。スナク首相は今回の「ウィンザー枠組み」について「決定的な突破口を開いた」とし、英領北アイルランドと、EU加盟国であるアイルランドの問題解消に期待を示しています。




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ブレグジットに後に残された懸案の1つに解決の兆し

英国政府と欧州連合(EU)は2023年2月27日、英国のEU離脱(ブレグジット)に伴い生じた際に結んだ英領北アイルランドに関する取り決めについて、物流に関するルールを見直すことで合意しました。この問題により、英国がEUを離脱した後も英国とEUの間で関税ゼロの貿易が一部停止になるといった懸念が残されていました。合意案は今後、英議会で採決される必要があります。

北アイルランドとアイルランドは、イギリスとEUが唯一、国境を接している地域です。歴史的にアイルランドは英国から独立を選んだ一方で、北アイルランドは英国にとどまったという経緯があります(図表1参照)。ブレグジット前は英国もEUの関税同盟や単一市場であったため、物流の問題は意識されていませんでした。しかしブレグジットにより、国境問題が再びクローズアップされていました。

北アイルランド問題は歴史的な背景もあり、慎重な対応が求められる

今回の北アイルランド国境問題には歴史的な経緯が見逃せません。北アイルランドとアイルランドに分かれたのは、カトリックが多数派を占める(現在の)アイルランドに対し、プロテスタントが多数派であったアイルランド島の北部6県が英国に残り(現在の)北アイルランドとなりました。ただし、北アイルランドにおける多数派のプロテスタント(英国との統一を主張、ユニオニスト)と、少数派のカトリック(アイルランドへの合併を主張、ナショナリスト)との間で、英国や、アイルランドを巻き込んで激しい対立が繰り広げられた時期もありました。

しかし、英国とアイルランドの間で和平合意となるベルファスト合意が結ばれました。この合意で大切なのは、北アイルランドとアイルランドの間に物理的な国境を設けないことでした。国境が再び設けられれば、北アイルランドを巡って緊張が高まることも懸念されます。

もっとも、ブレグジットの前のように英国、アイルランドがともに関税同盟と、単一市場の枠組みであれば、物流について国境問題は生じませんでした。

ところが、英国がEUを離脱することになり、EUがアイルランドと英国(北アイルランド)の物流に所定の手続きを求めたことから、国境がないと規制をすり抜けてしまうことをEUは懸念しました。一方で、国境を設けることは和平合意を反故にすることとなり、不可能と考えられています。

英国とEUの関係は親EU路線のスナク政権誕生で変わりつつあるようだ

英国がEUを離脱する前から、この問題の解決策が模索されていました(図表2参照)。例えば、EUが18年に示したアイデアはブレグジット後も北アイルランドがEUと同じ関税同盟に残留するという提案でした。北アイルランドをEUに残して英国を分断するような提案は英国が強く否定しました。

ところが、EUからの離脱を優先させるEU強硬派のジョンソン首相(当時)は19年の離脱協定において、英国はEUの関税同盟からも単一市場からも離脱する一方で、北アイルランドだけはこれらに部分的に留まることにより、アイルランドとの間の国境を開放しておくことでEUと合意しました(北アイルランド議定書)。当然ながら、英国との統一を主張するユニオニストから猛反発が起こりました。また、EUとの物流で手続きが煩雑になるなどの問題にも直面し、関係がぎくしゃくしました。


しかし、風向きが変わり始めたのは昨年10月に親EU路線のスナク政権の発足です。例えば、今年1月には北アイルランドと英国間の貿易データへEUがアクセスすることを認めることで暫定合意しています。政治的な取り決めゆえ、詳細は分かりませんが、英国とEUの関係改善がうかがえます。

このような経緯を踏まえ、今回、英国とEUは先の北アイルランド議定書の文言を変更することで合意しました。これまで、北アイルランド議定書に基づけば、北アイルランドの企業が英国本土の企業から商品を購入すれば、EUが定めた規則に基づいて取引をする必要があるため、追加のコストが必要でした。これが物流を滞らせていました。

しかし、今回の合意により、英国本土から北アイルランドへの商品を輸送する場合、最終目的地が北アイルランドの場合は通関上の手続きをほぼ廃止するという内容で、大幅に手間が省けることが期待されます。なお北アイルランドにとどまらず、アイルランド向けの商品の場合、英EU間の貿易に求められる手続きを行う必要があるようです。

今回の合意案は英国議会の北アイルランドの親英派や自ら率いる与党・保守党のEU懐疑派に了解を取り付けなければならず、仕事は残されています。また他にも課題は残ることから、スナク首相も今回の合意案を「新たな章の始まり」と呼んでおり、終わりでない点には注意が必要です。

市場の評価は直後にポンド高で反応したものの、上昇の勢いはやや後退しています。英国経済に占める北アイルランドとの取引規模は小さく、直接的な押上げ効果は限定的と思われます。もっとも、親EU政権の誕生でぎくしゃくしていた英国とEUの関係が改善するようであれば、さらなるプラス効果も期待されるだけに、期待と不安のなか、今後の展開を見守ることとなりそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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