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中国不動産支援、長期化の様相か?
梅澤 利文
2023/07/12

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概要

中国人民銀行などが先日公表した不動産市場のテコ入れ策は、昨年11月の16項目からなる包括的な金融支援策のうち、期限切れとなるものを延長することで、対応期間を延ばすものでした。不動産市場に対して支援を継続する姿勢ともみられますが、不動産問題の解決には時間がかかることも浮き彫りになった面もあり、今後も幅広い対応が求められそうです。




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中国人民銀が共同声明で、不動産市場の包括的な支援策を公表

中国人民銀行(中央銀行)と国家金融監督管理総局は2023年7月10日、昨年11月に打ち出した16の項目からなる不動産市場向けの包括的な金融支援策(包括的支援策)の一部を延長すると発表しました。昨年の包括的支援策のうち期限が定まっていた2項目について期限を延長することで、今後も取り組む姿勢を示しました。

昨年11月の包括的支援などを受け、中国の不動産市場には回復の兆しが見られました(図表1参照)。今年3月には前月比0.5%近い上昇となりました。しかし足元では再び新築住宅価格に鈍化がみられます。住宅販売(床面積ベース)など他の不動産指標も同様に足元悪化しており、当局は中国不動産市場を支える姿勢を維持しています。

昨年11月の16項目からなる支援策のうち、期限を迎えたものは延長

結論から述べると、今回の包括的支援の延長だけで不動産市場の回復を期待するのは無理があるように思われます。不動産市場対策として、規制緩和や金融緩和など他の政策を組み合わせることが求められると考えています。

まず、今回の包括的支援の延長の内容を確認すると、主な措置は2つです。1つ目は不動産開発企業の借入返済の期限を延長するという内容です。昨年11月の包括的支援策では、半年以内に返済期限が到来する不動産開発企業の融資を1年間延長できるとしていましたが、今回、24年末までに返済期限が到来する融資は1年間の延長を認めるとしています。

2つ目は引き渡しができていない仕掛り住宅物件の完成まで融資を継続することを可能とするもので、こちらも昨年11月に半年とされていた期間が24年末にまで延長されました。期間が限られていた支援項目を延長することで、不動産市場を支える姿勢を明確にしたものです。

もっとも、延期を迫られたのは、半年ではこれらの問題が解決できなかったことの裏返しともみられます。昨年11月に公表された包括的支援はすでに半年以上経過するなか、不動産市場の底打ちには貢献したと思われますが、回復は道半ばとみられます。今回の支援策に加え、追加的な不動産市場のテコ入れ策が求められそうで、金融緩和や住宅取得の規制緩和などが考えられます。

今後も不動産市場テコ入れ策導入は想定されるが、課題も残るとみられる

金融緩和による住宅ローンの引き下げ方として主に2つの経路が考えられます。まず住宅ローン金利算出のベースとなるローンプライムレート(LPR、5年物)を引き下げる経路です(図表2参照)。

別の経路として、たとえLPRを変えないとしても、LPRの適用下限を引き下げることも考えられます。住宅ローン金利はLPRそのものではなく、LPRから一定のマイナス幅を下限金利として引き下げ住宅ローン金利を引き下げるイメージです。例えば昨年の5月に人民銀は住宅ローン金利をLPRマイナス0.2%としています。なお、下限金利(引き締めでは逆)を使った住宅ローン金利の上げ下げは地域別に適用されることも多く、的を絞った政策を実施することに利用されています。

なお中国は主な政策金利であるLPRと中期貸出制度(MLF)などを6月に引き下げました。おそらくこれを受けて、中国の景気動向をみるバロメーターである社会融資規模や新規人民元建て融資額の6月分は急拡大したとみられます。6月の新規融資額は約3兆500億元(約59兆4600億円)と、市場予想の2兆3000億元、前月の1兆3630億元を上回りました。政策金利の変更は中国経済全体に波及するため、今後の中国景気の動向や人民元安を配慮しつつ、金融緩和を模索するものと思われます。

不動産市場のテコ入れ策として、規制緩和も考えられます。住宅は投機の対象でないとの考えから厳しく制限されてきた転売規制を緩和することなどが考えられます。

頭金比率の引き下げも検討されるかもしれません。住宅を初めて取得する場合の最低頭金比率を引き下げることなどが考えられます。主な住居でないセカンドハウスなどの購入に対する頭金の比率は高く、引き下げ余地はあると思われます。しかし中国当局は住宅投機に対しては厳しい姿勢を維持しており、政治的な判断が求められそうです。

中国の不動産市場の問題が根深いのは、市場に対する不信感が払しょくできていないためとみています。これまで述べてきた政策は必要ではありますが、コンフィデンスの改善につながるのかという点には課題が残るように思われます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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