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ユーロ圏8月PMI、サービス業にも鈍化の兆し
梅澤 利文
2023/08/24

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概要

ユーロ圏の8月の総合購買担当者景気指数(PMI、速報値)は、サービス業の悪化などを受け、先月に続き50を大きく下回り、7-9月期のユーロ圏の景気動向が懸念されます。8月のユーロ圏PMIは今月前半のユーロ圏国債利回りの上昇に冷や水を浴びせる格好となりました。一方でインフレ率の高止まりも示唆されることから、今後の展開次第ながらスタグフレーションへの懸念も頭をかすめます。




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8月のユーロ圏総合PMIはサービス業の悪化で低下傾向が持続した

米S&Pグローバルが2023年8月23日に発表した8月のユーロ圏総合購買担当者景気指数(PMI、速報値)は総合で47.0と景気拡大・縮小の目安となる50を下回り、市場予想の48.5、前月の48.6を下回りました(図表1参照)。

内訳をみると、サービス業PMIが48.3と市場予想の50.5、前月の50.9を下回ったことが全体の動向を示す総合PMIを押し下げました。一方で、製造業PMIは8月が43.7と、市場予想、前月(ともに42.7)を上回りました。50を大幅に下回る水準ながら、製造業PMIの下落傾向に一服感が見られました。ユーロ圏の8月のPMIを受けて市場では、欧州中央銀行(ECB)が9月の政策理事会で利上げをするとの見通しがやや弱まりました。

8月のユーロ圏PMI、国別ではドイツの落ち込みが目立った

ユーロ圏の総合PMIは今年4-6月期は平均で52.3で、この時期の実質GDP(国内総生産)成長率は前期比で0.3%増でした。一方、7月と8月の平均は47.8であり、9月も結果次第ながら、7-9月期にマイナス成長も懸念される水準です。

8月の製造業PMIは前月を上回ったものの43.7と依然低水準です。一方でサービス業PMIは50を下回りました。

国別にみると、ドイツの特にサービス業のPMIが8月は47.3と前月の52.3から大幅に悪化しました(図表2参照)。PMI発表元のコメントによると、ドイツのサービス業PMIが悪化した背景として、金利や物価上昇によるセンチメントの悪化、消費者動向の不確実性の高まり、賃金上昇に伴うビジネスコストの増加などが指摘されています。

一方で、フランスは観光客が足元のデータではやや回復が頭打ちながら、フランスのサービス業PMIの落ち込みはドイツに比べれば小幅でした。そのためフランスの総合PMIは前月と同水準でした。

なお、8月のユーロ圏PMI調査の対象期間は8月の10日~21日で、この期間にドイツなどで景況感の悪化が見られたこととなります。

景気鈍化とインフレ高止まりで、ECBは難しい判断を迫られる

8月のユーロ圏総合PMIの構成指数をみると、雇用PMIは50.3と、かろうじて50台を確保するも、前月を下回りました。低下の主な背景はサービス業における雇用の悪化です。これまでECBはユーロ圏の雇用市場は堅調と説明してきただけに、雇用市場がPMIの示唆する方向に変化することがあるのか、今後の動向に注意が必要です。

価格関連PMIはインフレ圧力の根強さが示唆されました。例えば財とサービスの平均価格は過去7か月の低下傾向から上昇に転じました。ユーロ圏の消費者物価指数(HICP)は昨年の10月をピークに、エネルギー価格の下落などを背景として、低下傾向です。ただし賃金上昇などから下落のペースは緩やかになり、食糧やエネルギーを除いたコアインフレ率は高止まりとなっています。PMIでも同様の傾向が確認されました。

8月のユーロ圏PMIは景気鈍化と、根強いインフレへの懸念が示されました。サービス業PMIの悪化がサプライズであった分、PMIを受け市場はユーロ圏景気への懸念から、国債利回りは低下しました。

市場のECBの金融政策見通しにPMIは影響したようです(図表3参照)。図表3の縦軸は現在の政策金利からの変化幅を示しています。1週間ほど前、市場は年内に約0.2%の利上げを織り込んでいました。1回の利上げ幅を0.25%とすれば、年内の追加利上げを概ね見込んでいたイメージです。しかしながらPMIを受け、年内利上げ見通しの確信度合いは低下したことがうかがえます。

このため24日~26日に開催予定のジャクソンホール会議におけるECBのラガルド総裁の発言が注目されます。7月の政策理事会後の会見では9月に利上げか、それとも据え置くかはデータ次第と繰り返し説明していました。サービス業PMIまで軟調となったことで、何らかの変化があるのかもしれません。ジャクソンホール後のユーロ圏の主な経済指標で注目されそうなのは8月のHICP程度で意外と材料に乏しいこともあり、ラガルド総裁の発言が注目されます。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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