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中国の幅広い景気対策、若干の効果を発揮か
梅澤 利文
2023/09/19

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概要

中国の8月の主要経済指標は小売売上高などが市場予想を上回りました。不動産市場の悪化が消費者のマインドを委縮させた面はあるとしても、中国の個人消費に底堅さもうかがえます。そうした中、中国当局の不動産投資への最近の対応を見ると、投機は許容しない方針を維持する一方で、的を絞った対策を幅広く実施しています。これが効果を発揮するか見守る姿勢が必要です。




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中国の8月の主要経済指標のうち、小売売上高などが市場予想を上回った

中国国家統計局が2023年9月15日に発表した8月の主な経済統計によると、小売売上高は前年同月比4.6%増と、市場予想の3.0%増、7月の2.5%増を上回りました(図表1参照)。夏季の旅行需要や景気刺激策などが押し上げ要因とみられます。小売売上高を部門別にみると、食料(外食)を筆頭に、化粧品や宝飾、石油(ガソリン)などが堅調でした。反対に、建設資材や、オフィス用品、家電機器、自動車などは軟調でした。

工業生産は前年同月比4.5%増と、市場予想の3.9%増、前月の3.7%増を上回りました。

固定資産投資は年初来前年比で3.2%増と、市場予想の3.3%増、前月の3.4%増を下回りました。

小売売上高で裁量消費に回復がみられたことは底打ち示唆の可能性も

中国の8月の経済指標は、悪化が懸念されていた中国経済に底打ちの兆しがみられました。小売売上高や工業生産の改善内容の一部にポジティブな面がみられるからです。一方で、固定資産投資が伸び悩んだ背景である不動産投資は依然として減速傾向と思われます(図表2参照)。

8月の小売売上高に見られたプラス面の1つは外食の動向を反映する食料が前年同月比12.4%増と小売売上高全体(4.6%増)を上回り、ゼロコロナ政策後の消費拡大の動きが継続しているとみられることです。また、裁量消費に分類される化粧品が8月は9.7%増と前月のマイナス4.1%を上回り、宝石も7.2%増と、前月のマイナス10.0%を上回りました。単月の動きで断定するべきではないものの、景気が深刻な状況では通常消費が控えられやすい品目が回復したのは注目に値するとみられます。石油(ガソリン)は6月、7月とマイナス圏で推移しましたが、8月は前年同月比6.0%増と、プラスに転じ旅行需要の堅調さがうかがえます。

一方で、不動産市場の悪化を受け、建築材料はマイナス11.4%と、年初からマイナス圏での推移が続いています。電気用品もマイナス2.4%と、前月のマイナス5.5%に続き減少しました。

なお、自動車は1.1%増と低水準でした。自動車購入補助金が年末で原則打ち切りとなる中、昨年の底上げされた売り上げとの比較で今年は低くなっていると思われます。ただし、都市によっては補助金を再開させており、今後も当局の対応が自動車の売り上げを左右しそうです。

次に、工業生産では四輪車が前年同月比4.5%増と、前月のマイナス3.8%を上回りました。内訳では、乗用車が0.4%増にとどまりましたが、EVなどの新エネルギー車は13.8%増と堅調でした。中国政府が振興する新エネルギー車の増加政策を反映した動きとみられます。巣ごもり需要が縮小し、年初から各月マイナス20%前後で減少していたコンピュータは、8月がマイナス1.8%と、マイナス幅を大幅に縮小させ、底打ちの兆しがみられました。

一方で、ガラスやセメントなど建設関連の品目の生産は8月もマイナス圏での推移でした。

一つ一つは小粒の経済対策を幅広く行うことで効果を高める戦略か

中国の消費や生産活動に底堅さがみられる一方で、不動産市場の回復には時間がかかりそうです。そこで最後に、中国当局の最近の主な経済対策を整理します(図表3参照)。

経済対策の特色は、大胆さはない半面、対策が必要な分野に的を絞った政策であることが挙げられます。この点を不動産投資の促進などを例として述べます。もし大胆な政策を導入するならば住宅ローンの指標となる5年物最優遇貸出金利を大幅に引き下げることが考えられますが、同金利の引き下げ幅は小幅にとどまっています。

むしろ頭金要件の緩和などきめ細かさが目立ちます。中国の頭金要件は最初に住宅を購入する場合(1次取得)と2件目(2次取得)で頭金要件が異なり、2次取得を厳しくしています。2件目以降の住宅投資が投機に使われていたとの考えからより厳格化しているものと思われます。ここで、不動産投資促進策とされる「1次取得者の対象拡大」とは、最初に住宅を購入しローンを完済した人を、これまでは2次取得として厳格な頭金要件を課していたことから、そのような人を1次取得とみなすことで頭金要件を緩和するというのが「1次取得者の対象拡大」の内容です。頭金の最低水準は、特に2次取得に対し大都市で、高水準が設定されていたため、今回の要件緩和で住宅投資が活発化する可能性はあります。しかし、この例でも分かるように、1つ1つの対策は的を絞っている印象です。大幅な金利引き下げや大規模財政策で投機をさせない意向が読み取れます。一方、最近は(1つ1つは小粒でも)幅広く政策を繰り出すことで、効果を高めることを意図しているようです。

中国の不動産投資に対する信頼回復は時間がかかるかもしれませんが、景気対策の効果にも注意を払う必要がありそうです。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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