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インドネシア中銀、予想外の利上げの背景
梅澤 利文
2023/10/23

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概要

市場では今回のインドネシア中銀の金融政策決定会合で、ほぼ全員が据え置きを見込んでいました。インドネシアのインフレ率が低下傾向であることなどが背景です。しかし、インドネシア中銀は地政学リスクの高まりや米国の長期金利上昇などでさらにルピア安が進行する懸念に対して先手を打っての利上げと説明しています。インドネシア中銀は今後、会合ごとに利上げの有無を判断する姿勢とみています。




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インドネシア中銀、市場の据え置き予想に反しサプライズ利上げ

インドネシア中央銀行は2023年10月18日-19日の両日に開催した政策決定会合で、政策金利(7日物リバースレポ金利)を0.25%引き上げ、6%とすることを決定しました(図表1参照)。市場では大方が5.75%で据え置くことを見込んでいたためサプライズの利上げとなりました。インドネシア中銀は声明文で利上げの背景について、輸入インフレの影響を緩和するための予防的措置として実施したと説明しています。

インドネシア国債市場では予想外の利上げを受け国債利回りが上昇しました。また、ルピア安抑制が利上げの主旨であったとみられるものの、発表を受け通貨市場ではルピア安が進行しました。

インドネシアのインフレ率は中銀の物価目標(中央値)を下回る

インドネシア中銀が22年8月から23年1月まで6会合連続で利上げをした後、足元まで政策金利を5.75%に据え置いてきました。この間の利上げを受け今年春頃までルピアは対ドルで上昇傾向でしたが、夏頃からルピア安が進行し、国債利回りが上昇していたことから、インドネシアからの資本流出があったものと推察されます。

インドネシア中銀が利上げを決めた主な要因は通貨安による輸入インフレに対し先手を打った面が強そうで、足元のインフレ圧力は収まりつつあるようです。インドネシアの9月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比2.3%上昇し、価格変動の大きい項目を除いたコアCPI は2.0%上昇となりました(図表2参照)。インドネシア中銀の23年の物価目標は3%(±1%)、24年はより抑制的となる2.5%(±1%)に設定するとしていますが、来年の目標も達成済みと、利上げを急ぐ必要は無さそうにもみえます。

もっとも、足元のコメや牛肉価格の上昇には懸念を示しています。また、声明文ではルピア安による輸入インフレへの懸念もあることから、これに先手を打つことが利上げの主旨と示唆しています。

インドネシア中銀はインドネシアの経済成長率は個人消費と旺盛な投資に支えられ堅調に推移するとみています。また国際収支についても大幅な変動は抑えられており、概ね安定的と判断していることからこれらに問題はないとみているようです。

米国の財政悪化などによる米長期金利上昇がインドネシアを左右する

そのような中、インドネシア中銀はルピア安の背景として前回の会合に比べ外的環境の変化、具体的には中東情勢悪化や米国長期金利上昇を指摘しています。特に米国長期金利の上昇傾向に伴い、インドネシア国債利回りの上昇(価格は下落)がルピア安を伴った点を懸念しているようです。

なお、インドネシア中銀が米国の金融政策について言及している点を拾うと、年内利上げは12月の可能性をある程度見込む一方、米国が高水準の政策金利を長期的に維持する公算は高いとみています。インドネシア中銀は米国の長期金利上昇は国債発行額の急増などがその背景とみているようです。国際情勢が不安定な中では、ルピア安に対し先手を打つ必要性を強調しています。

なお、ルピア安への対応として、インドネシア中銀は為替介入の実施がうかがえます。インドネシアの外貨準備高はすでに減少傾向だからです(図表3参照)。その水準は、前回の利上げ開始時期のレベルに近づいており、今回の利上げは、さらなる通貨安抑制のツールを取り出した印象です。

インドネシア中銀の利上げが他のアジア諸国に波及するのかは今後の展開次第でしょう。ただし、フィリピンやマレーシアなどはインドネシア同様いったん利上げを停止した後で、政策金利の据え置きを続けているだけに、事情は似たところもあります。特にマレーシアの政策金利は3.0%と水準が低いこともあり、通貨安圧力が相対的に大きくなる可能性も考えられます。もっとも、各国のインフレ率やドル建て債務の規模などはアジアの近隣諸国といっても事情は異なっており、今後の通貨の動向は同じものではないかもしれません。ただし、ドル高、もしくは米国金利の動向はいずれにせよアジア諸国などへの影響力が大きいことから、今後の動きには注意が必要です。

インドネシアの金融政策に話しを戻すと、利上げが今回だけにとどまるのか、それともさらなる追加利上げがあるのかはあまり明確ではありません。インドネシア中銀は追加利上げの可能性を否定しない一方で、今後の利上げの有無は会合ごとに判断する方針だからです。(ルピアの動向を大きく左右する)米国の金融政策がデータ次第のスタンスであることから、インドネシアの金融政策も、似たスタンスとなることを余儀なくされるのではないかとみています。


梅澤 利文
ピクテ・ジャパン株式会社
ストラテジスト

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)


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